うなじの掻き傷を鏡越しで見てみると
俺は昔から“少し変な癖”があった。
イライラすると手の中指で首の後ろ、うなじ周辺を引っ掻く。
大学4年生の頃、就活がうまくいかず、サークル内では揉め事も頻繁に起きて、俺はストレスを募らせていた。
家に帰って自室に篭っては、悩みながら首の後ろをガリガリと掻いていた。
その痛みがイライラを解消する。
リストカットのようなものかもしれない。
その癖のせいで、俺のうなじはどす黒く変色している。
そして、ある日におかしなことに気づいた。
掻いた傷口から”何か生えている”のだ。
毛にしては固く、でもそれ以外にあり得ないので、どうしようかと少し悩んだ。
気づいたその日からあまり触らないようにしていたが、やっぱりストレスが溜まるもので、どうしても触れてしまう。
すると、だんだんと大きくなっていった。
いよいよ気になった俺は、鏡を使ってその部分を一目見てみようと試みた。
そうして意を決して鏡を覗いてみると、そこにはまるで『目を瞑った人の顔のようなもの』があった。
(何だよこれ…)
そう思いながらじっくり見ていると、その人の顔のようなものが突然パチっと目を開いて、鏡越しに目が合ってしまった。
直後、確かにこう聞こえた。
「みつかっちゃった」
そこから先は記憶にない。
その後、友達にその部分を見てもらったが、「傷キメぇよ!」と言われるぐらいで特に何もなかった。
自分でもよくわからないが、そのキモい傷口はいつの間にか消えていた。
そして今ではもうすっかり掻く癖もなくなって、普通に暮らしている。
(終)