じっさまが寝泊りしている宿舎の扉を叩く者
亡くなった曾祖父のじっさまから、子供の頃に聞いた話。
昔の話を色々と聞かせてくれたが、一番印象に残っているのはこれだ。
じっさまの青年時代、現地の人を日本人とする為の教育係として満州に渡った。
配属された集落の村人達とは、仲良しとまではいかないものの悪くない関係を築いていたらしい。
そうしたある日の夜、じっさまが寝泊りしていた宿舎の扉を叩く者がいた。
今でも宇宙人はトラウマになっている
表に出てみると、大きい子供か小さい大人か、どちらとも判断できない“小振りの男”がそこに立っていた。
その男は、巻き付けた程度の簡素な服と、身体はヒョロリとしているのに頭と黒目だけは異様に大きかったそうだ。
じっさまは「どしたね?」と尋ねてみるが、男は何も言わずに両膝を付いて両手を高く上げた。
これは、物乞いのポーズだったらしい。
その宿舎には、じっさまの他にもう一人の仲間がいて、彼は「帰れ!帰れ!」と邪険にしたそうだが、じっさまは男を哀れに思い、わずかばかりの食料を渡した。
それを受け取った男は何も言わずにスッと立ち、ササッーっと走ったのか滑ったのか、あっと言う間に立ち去った。
翌日、村人達に「こんな人がいるか?」と尋ねたが、誰も知らなかった。
その後、その男を見かけることはなかったそうだが、じっさまは「あれは河童だ」と言っていた。
その話を聞いてしばらく後のこと、当時テレビで矢追純一のUFOスペシャルなどが頻繁にやっていた時だ。
もう歳だしテレビなんて滅多に見ないじっさまが、そのUFO番組を観て興奮し始めた。
「あれがや!あれがや!」(あれだあれだ)
何の事を言っているのか分からなかった俺だが、件の話を再度してもらうと、じっさまの言っていることが理解できた。
要するに、“グレイタイプの宇宙人があの時の乞食の男そのものだった”という。
※グレイ(宇宙人)
地球外の存在としてグレイを彷彿させる巨大な頭部を持つ目の細い生き物。(Wikipediaより引用)
なぜ宇宙人が食べ物を物乞いするのか、今になって冷静に考えればおかしいのだが、じっさまは真剣だった。
そのせいで俺は、実在する宇宙人やベッドの横に立つ宇宙人など、テレビで恐怖演出を頭に刷り込まれ、今でも宇宙人はトラウマになっている。
(終)