棺に入れた手紙を読んでくれた爺
これは、不思議な体験をした話。
私はジジっ子。
お風呂に入るのも、寝るのも、朝早く起きて爺と畑や田んぼの見回りにくっ付いていくのも日課だった。
でも、まだ幼い頃は夜中に母恋しくなって、爺の建物から母屋に送ってもらうこともしばしばだった。
といっても、庭を挟んで建っていたので距離は10メートルもなかったと思う。
爺が闘病の末に亡くなって何ヶ月か経った頃、夢に出てきた。
爺が「じゃあね」みたいな感じで遠くの光の方に歩いて行き、それを見送る私は「もう会えないんだなぁ」という気持ちがしていた。
寂しさはあったけれど、なにか誇らしげな気持ちもあって、嫌な気持ちはなかった。
ちょうど同じくらいの時、妹も同じような夢を見ていた。
それから随分な時を経て、また爺が夢の中に出てきた。
私が母恋しくなって母屋に送ってもらう時と同じ風景だった。
私をおんぶした爺の表情は伺えなかったけれど、少し照れくさそうに、というかバツが悪そうにこう言った。
「いやぁ、手紙読んだら懐かしくなっちゃって。本当はダメなんだけど」
光の方へ歩いて行った時はもう会えないと思っていたのに、ひょっこり会いに来てくれた爺。
10メートルもない庭を、すごくゆっくりと歩いていた。
そうして母屋に着いた時、目が覚めた。
夢の中ではなぜか私から話かけれなかった。
だけど、久しぶりに会えて嬉しかった。
棺に入れた手紙を読んでくれたんだなぁ、と思った。
爺が光の方へ歩いて行き、もう会えないという感覚がした時は、「これから次の生を受けるために修行に行くのかな?」、なんて思ったりした。
それに、修行中に抜け出して会いに来てくれたのかな?とも。
「本当はダメなんだけど」
爺のその言葉がすごく心に残っている。
(終)