懐かしい友人の笑顔
目の前で友人が死んだ。
「大丈夫」
そう思って、
赤信号で横断歩道を渡って・・・。
少し遅れて来た友人が
トラックに衝突。
自転車ごと、
巨大なトラックに衝突。
鈍い音がして、
ブレーキ音が響いた。
俺はすぐ振り返り、
友人の安否を気遣った。
手遅れと分かっていた。
友人はどこからか血を流していて、
ぐったりしていた。
「シネ」
と冗談で言い合ってたのに、
本当に死んでしまった。
それからの俺は、
あの信号でも、
初めて見る信号でも、
よく知る信号でも、
赤は止まり、青は進む。
当たり前のことをしだした。
いつの間にか、
俺はそんな悲しい事件を
忘れかけていた。
もう今年で23になる。
妻もいるし、
幸せだった。
子供も一人いた。
まだ3歳の子で、
名前は○季。
娘だ。
その子供と妻とで、
旅行に行く事になった。
・・・事件は起こった。
あの信号の前を
偶然通った。
その場所の、
あの時の記憶が
鮮明に蘇った。
ドクン、と心臓が音を立てる。
ハンドルを握る手に
緊張が走った。
目の前の青信号、
まだ少し遠くに見える、
自転車に乗った2人の学生。
俺は無意識に彼らを見ていた。
・・・ドクン。
彼らは案の定というべきか、
信号を無視して
俺の目の前に現れた。
ドクン、ドクン。
距離は十分開いている。
このままのスピードで走っても
問題は無さそうだ。
でも、俺はブレーキを
思いっきり踏んだ。
止めないといけない。
キーッと、
あの時ほどでは無いが、
それでも激しい音を鳴らして
車が止まる。
後ろの車も、
俺の急停止の経過を見て
止まる。
衝突は避けれた。
「どうしたの?!」
妻の声。
俺は正気を取り戻した。
妻の顔を見て・・・
何も言えなかった。
『そうだ、あの2人は?』
視線を彼らのいるはずの
場所に向けた。
学生はこちらを見て、
ペコリと頭を下げていた。
ほんの少し、
ちょっとだけ。
俺は安堵した。
息を吐いてハンドルを握る。
そして、何気なく学生達とは
反対の歩道を見た。
懐かしい友人が、
俺に笑顔を振りまいていた。
(終)