手に負えない呪われた教室とは
A高校は、新学期から
一年生が1クラス増えた。
その教室は、
今まで教材置き場としてしか
使われたことのなかった教室だった。
梅雨に入った6月の半ば頃、
そのクラスのTは、
早めに学校に着いた。
教室に入ると、
早く来たせいか、
誰も居ない。
ふと黒板を見ると、
赤いチョークで『呪』という字が、
大きく書かれていた。
Tは何かの悪戯だろうと、
それを消した。
翌日、
Tが朝一番に教室に入ると、
またそれはあった。
Tはすぐに消したのだが
気味悪く思い、
それ以降、
朝は遅めに家を出る事にした。
それから三日後、
Tが教室に入ると、
黒板には最初に見た時と
同じように『呪』の文字があった。
ただ違うのは、
その字が赤いチョークよりも、
もっと濃い赤で、
まだ乾いていない絵の具のようなもので
書かれていた事だった。
既に登校していたクラスメートも、
何人か周りに集まっていた。
その日、一番最初に登校した
Sに話を聞くと、
「ここ3日ほど最初に教室に来て
『呪』の字を消してたのだけど、
気味が悪い悪戯だから
今日はこのまま残しておいて、
先生やみんなに
見てもらおうと思った」
と言った。
朝のHRが始まる頃には
クラスの大半が登校していて、
字を見てざわついていた。
担任が教室に入ると、
字を見て、
「誰がこんな事をしたのか?」
と言い、
TとSが今までの事を
みんなに説明した。
職員会議で、
夜中に誰かが忍び込んで
悪戯するのだろうという事になり、
その教室は学校が終わると
鍵を掛けることになった。
しかし、
鍵を掛けたのにも関わらず、
次の日も『呪』の文字はあった。
その字は赤黒く、
黒板にこびり付いて、
容易には消せなかった。
その日の授業で突然、
Tが狂ったように喚き暴れ出し、
何人かの教師に押さえられ、
救急車で運ばれていった。
さらに次の日、
学校が終わったら
その教室に鍵を掛けて、
夜に校内を見回る
宿直の教師が、
その教室の前で死んでいた。
死因はショック死だった。
生徒は混乱し、
『呪』の祟りだと、一時
パニック状態になった。
そのクラスは臨時に教室を
視聴覚室に替えることになったが、
霊がいるだのと、
PTAにまで噂が上り、
霊媒師に御祓い
してもらう事になった。
夜、校長をはじめ、
学校側の教師数名と
PTAからの数名の立ち会いのもとに、
霊媒師を呼んでの御祓いが、
その教室で行われる事になった。
外は雨が降って
蒸し暑いというのに、
教室の中はうすら寒く、
異様な空気が流れていた。
午前二時を過ぎた頃、
霊媒師が「来ました」と言った。
ロウソクの薄明かりに、
霊媒師が一心に御祓いの言葉を
唱えている中、
皆は黒板に釘付けになった。
そこには何も無いのに
『呪』の字がゆっくりと現れ、
さらに、字からは
血が滴り落ちるように流れた。
次の瞬間、
字はフッと消えた。
霊媒師はその場で倒れ、
保健室に運ばれた。
しばらくして、
霊媒師が目を覚ますと、
「御祓いすることが出来ませんでした」
と言った。
理由を聞くと、
昔、この土地で死んだ
女の霊が現れたという。
立ち会いの何人かも、その時に
女が見えていた人がいて、
顔が見えないくらい髪が長く、
白い服を着ていて、
口からは異様に長い舌が
ヘソ辺りまで垂れていて、
手の指先が切られ、
その指で『呪』の字を
書いていた、
と皆同じ事を言った。
霊媒師によると、
その女は強姦され、
その時のショックで狂ってしまい、
自分の指を噛み切り、
自分の舌を噛み切り、
井戸に飛び込んで
自殺をしてしまったらしい。
その井戸が教室の真下の位置に
埋められており、
だから女はそのクラスに
とり憑いたと言う事だった。
女の怨念は凄まじく、
御祓いする事が出来ない為、
その教室には御札が貼られ、
誰も入る事が出来ないように
鍵も掛けられ、
一年の教室も別の教室に
移されることになった。
今でもその教室には、
『呪』の文字が乾く事無く、
残っているらしい。
(終)
その文字の上から精〇でなぞるという挑発をする勇者はいなかったのか