見えない何者かに話し掛ける女

子供の頃、

 

近所にちょっと変わった

女性がいた。

 

一日中、

縁側に座りながら、

 

何かブツブツと

独り言を言っているのだ。

 

学校の通り道に

その人の家があった為、

 

学校の行きと帰りに、

必ずその人を見かけた。

 

あの日も、

 

いつも通りの

学校の帰り道に、

 

その人の家の前を通った。

 

いつもなら通り過ぎる

ところなのだが、

 

その日に限って、

 

その人の独り言が

気になって仕方なかった。

 

誰かと会話しているような、

そんな風に聞こえたのだ。

 

塀の上に手を掛け、

 

少し頭を出して

縁側の方を覗いてみた。

 

やはり、女性一人しか

いなかった。

 

気のせいかと思い、

帰ろうと思ったその時・・・

 

その女性が喋り始めた。

 

「もう暗くなってきたから

中に入りましょうか」

 

俺に言っているのかと思い

ドキッとしたが、

 

向こうがこちらに

気づいている様子は無い。

 

俺はもう少しだけ様子を

見てみることにした。

 

「こんなに汗かいて、

お風呂に入らなくてはね。

 

待っててね、

お風呂の準備してくるから」

 

何もない、

 

誰もいないはずの

空間に向かって、

 

話し掛けている女性。

 

手に持ったタオルで

目の前にある何かを拭き、

 

家の奥の方へと

消えていった。

 

たぶん、お風呂の準備に

行ったのだろう。

 

何かの病気なんだな・・・

 

小さいながらも、

そう思った俺は、

 

これ以上覗き見してるのは

良くないと思い、

 

その場を立ち去ろうとした。

 

その時だった!

 

家の奥の方から

女性の声がした。

 

「お風呂の用意が

出来たわよ。

 

こっちへいらっしゃい。

 

それと、ちゃんと窓は

閉めてくるのよ」

 

その声がした数秒後、

縁側の窓が閉まった・・・。

 

(終)

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