子孫に伝え継ぐ鬼ゆすりの話 1/2

おんぶ

 

子供の頃、

伯父がよく話してくれたことです。

 

僕の家は昔から東京にあったのですが、

戦時中、本土空爆が始まる頃に、

 

祖母と当時小学生の伯父の二人で、

田舎の親戚を頼って疎開したそうです。

 

まだ僕の父も生まれていない頃でした。

 

戦争が終わっても

東京はかなり治安が悪く、

 

すぐには呼び戻されなかったそうです。

 

疎開先では色々と不思議なことが

起こったそうです。

 

そこだけではなく、

日本中がそうだったのかも知れません。

 

時代の変わり目には奇怪な噂が立つ、

と聞いたことがあります。

 

伯父たちの疎開先は

小さな村落だったそうですが、

 

村はずれの御神木の幹に、

 

ある日、突然大きな口のような

『うろ』が出来ていたり、

 

※うろ(洞)

内部が空になっているところ。空洞。

 

5尺もあるようなお化け鯉が現れたり。

 

※1尺は約30センチ。

 

真夜中に誰もいないにもかかわらず、

 

あぜ道を提灯の灯りが

行列をなして通りすぎて行ったのを、

 

多くの人が目撃したことも

あったそうです。

 

今では考えられませんが、

 

狐狸の類が化かすということも、

真剣に信じられていました。

 

そんな時、

 

伯父は『つんぼゆすり』

出くわしたのだと言います。

 

村のはずれに深い森があり、

そこは『雨の森』と呼ばれていました。

 

森の中で雨に遭っても、

 

森を出れば空は晴れているという

不思議な体験を、

 

多くの人がしていました。

 

伯父は、その森の奥に

うち捨てられた集落を見つけて、

 

仲間たちと秘密の隠れ家にしていました。

 

4~5戸の小さな家が

寄り集まっている場所で、

 

親たちには当然内緒でした。

 

チャンバラをしたり、

かくれんぼをしたりしていましたが、

 

ある時に仲間の一人が見つからなくなり、

夕闇も迫ってきたので焦っていました。

 

日が落ちてから雨の森を抜けるのは、

独特の怖さがあったそうです。

 

必死で「お~い、でてこ~い」

と探しまわっていると、

 

誰かが泣きべそをかき始めました。

 

伯父は「誰じゃ。泣くなあほたれ」

と怒鳴ったが、

 

次第に異変に気付きました。

 

仲間の誰かが泣き出したのだと

思っていたら、

 

見まわすと全員怪訝な顔をしている。

 

そしてどこからともなく聞こえてくる

泣き声が次第に大きくなり、

 

それは赤ん坊の泣き声だと

はっきり分るようになった。

 

ほぎゃーほぎゃーほぎゃーほぎゃー・・・

 

火のついたような激しい泣き方で、

 

まるで何かの危機を訴えているような

錯覚を覚えた。

 

その異様に驚いて、

 

いたずらで隠れていた仲間も

納屋から飛び出してきた。

 

そして暮れてゆく夕闇のなかで、

 

一つの家の間口あたりには、

人影らしきものが薄っすらと見え始めた。

 

子供をおぶってあやしているような

シルエットだったが、

 

どんなに目を凝らしても、

影にしか見えない。

 

人と闇の境界にいるような存在だと、

伯父は思ったと言う。

 

日が沈みかけて、

ここが宵闇に覆われた時、

 

あの影が蜃気楼のようなものから

もっと別のものに変わりそうな気がした。

 

刹那、鳥肌が立ち、

 

伯父は仲間を連れて

一目散に逃げ出した。

 

この話を大人に聞いてもらいたかったが、

家の者には内緒にしたかった。

 

近所に吉野さんという

気の良いおじさんがいて、

 

話しやすい人だったので、

ある時にその話をしてみた。

 

すると、

 

「そいつは、

つんぼゆすりかいなあ」

 

と言う。

 

「ばあさまに聞いた話じゃが、

 

あの辺りでは昔よく

幼子が死んだそうな。

 

つんぼの母親が子供をおぶうて、

 

おぶい紐がずれてるのに

気付かずにあやす。

 

※つんぼ

耳の不自由な人。

 

普通は子供の泣き方が

異常なのに気付くけんど、

 

つんぼやから分からん。

 

それでめちゃめちゃに揺すった挙句、

子供が死んでしまうんよ」

 

伯父は寒気がしたという。

 

「可哀相に。

 

せっかく授かった子供を

自分で殺してしまうとは。

 

無念じゃろう。

 

それで今でも子供をあやして、

さまよい歩いてるんじゃなかろうか」

 

それがつんぼゆすりか・・・

 

「鬼ゆすりとも言うな」

 

「鬼ゆすり?」

 

「なんでそう言うかは知らんが。

 

まあ、そうしたことが

よくあった場所らしい」

 

伯父はなんとなく、

 

あそこはそうした人たちが住んだ

集落なのだろうと思った。

 

ほとぼりが冷めた頃、

 

伯父は仲間と連れ立って、

またあの集落にやってきた。

 

一軒一軒まわって念仏を唱え、

 

落雁を土間に供えて

親子の霊を慰めた。

 

※落雁(らくがん)

米などから作った澱粉質の粉に水飴や砂糖を混ぜて着色し、型に押して乾燥させた干菓子。和菓子の一種。

 

そしてまた以前のように遊びまわってから

夕暮れ前に帰ろうとした時、

 

異変が起きた。

 

森に入ってから雨が降り出したのだ。

 

さっきまで完全に晴れていて、

綺麗な夕焼けが見えていたのに。

 

伯父たちは雨の降る森を

駆け抜けようとした。

 

しかし、

 

どうしてそうなったのか分らないが、

方角がわからなくなったのだという。

 

一人はこっちだといい、

一人はあっちだと言う。

 

それでもリーダー格だった伯父が、

 

「帰り道はこっちだ、間違いない」

 

と言って先導しようとした時、

 

その指を差す方角から、

微かに赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。

 

(続く)子孫に伝え継ぐ鬼ゆすりの話 2/2

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