子孫に伝え継ぐ鬼ゆすりの話 2/2

おんぶ

 

一人が青くなって、

 

「あっちは元来た方だ」

 

と喚いた。

 

頭上を覆う木の枝葉から

雨がぼたぼたと落ちてくる中で、

 

伯父たちは立ち尽くした。

 

仲間はみんな耳を塞いで、

泣き声の方角から後退り始めた。

 

「違う違う。騙されるな。

 

帰り道はこっちなんだ。

間違いない。

 

逆にそっちにはあの集落があるぞ」

 

伯父は必死に叫んだ。

 

そうしている間にも、

 

泣き声は不快な響きを

辺りに漂わせていた。

 

伯父は一人を殴りつけて、

無理やり引っ張った。

 

「耳を塞いでろ。

いいから俺の後について来い」

 

そうして伯父たちは、

泣き声のする方へ歩いて行った。

 

やがて木立が切れて森を抜けた時、

そこはいつもの村外れだった。

 

みんな、我を忘れてそれぞれの家に

走って帰ったという。

 

僕はその話を聞いて伯父に、

 

「雨は?

やっぱり降ってなかったんですか?」

 

と聞いたが、

伯父は首を傾げて、

 

「それがどうしても思い出せんのよ」

 

と言った。

 

これにはさらに後日談がある。

 

伯父が家に泣きながら帰ってきた時、

 

何があったのか聞かれて、

こっぴどく怒られたらしい。

 

当然もうあの森に入ってはいけないと、

きつく戒められたそうだ。

 

そして暫く経って伯父は、

 

その家の当主でもあった

刀自の部屋に呼ばれた。

 

※刀自(とじ)

年輩の女性を敬愛の気持ちを込めて呼ぶ称。

 

刀自は伯父を座らせて言った。

 

「つんぼゆすりとはそうしたものではない」

 

この刀自は僕にも遠縁になるはずだが、

凄く威厳のある人だったという。

 

一体誰に吹き込まれたか知らぬが、

と一睨みしてから刀自は語り始めた。

 

「この村は昔、

どこでもあったことだが、

 

生まれたばかりの子供を

口減らしのために殺すことがあった。

 

※口減らし(くちべらし)

経済上の理由から人数を減らすこと。

 

貧しい時代の止むを得ない知恵だ。

 

本来はお産のあと、

 

すぐに布で首を締めるなりして殺し、

生まれなかったことにするのだが、

 

おぶるくらいに大きくなってから

殺さなければならなくなった時には、

 

世間というものがある。

 

そこで母親はつんぼが誤って

赤子を揺すり殺してしまうように、

 

わざとそういうあやし方をして殺すのだ。

 

事故であると、

そういう建前で。

 

業の深い風習である。

 

それゆえに鬼ゆすりとも呼ばれ、

忌避されるのだ。

 

※忌避(きひ)

嫌って避けること。

 

「おぬし、

弔いの真似事をしたそうだが、

 

その時、

母親に情を移しておったろう」

 

伯父は思わず頷いた。

 

「あの辺りに昔あった集落は、

どれも貧しい家だった。

 

とりたてあそこでは、

鬼ゆすりが行なわれたはず。

 

いいか、

 

浮ばれぬのは母親ではなく

殺された赤子の方じゃ。

 

助けを求めて泣き叫び、

それも叶わずに死んだ赤子の怨念が、

 

泣き声が呪詛となって母親の魂をとらえ、

この世に迷わせて離さぬのだ」

 

※呪詛(じゅそ)

神仏や悪霊などに祈願して相手に災いが及ぶようにすること。呪うこと。

 

伯父はそれを聞いて総毛立ったという。

 

やはり、

 

あの時に森の中で聞いた声は、

伯父たちを誘っていたのだ。

 

『母親の成仏を願ったから』

 

あのまま元来た道を行っていたら、

取り殺されていたのかも知れない。

 

刀自は静かに言った。

 

「鬼ゆすりのことを伝え継ぐのは

わしら女の役割じゃ。

 

産むことも殺すこともせぬ男は

ぐっと口を閉ざし、

 

見ざる言わざる聞かざるで過ごすものだ」

 

伯父は恐れ入って、

 

もうこのことは一切忘れると

刀自に誓ったそうだ。

 

時代が大きく変わる時、

 

廃れていく言い伝えや風習が

最後の一灯をともすように怪異を成すのだと、

 

伯父はいつもそう締めくくった。

 

(終)

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