夢で見た、知るはずのない部屋 1/2

突き当たりの部屋

 

最近になって、

変な夢を見るようになった。

 

変なというか、

 

昔に住んでいた

祖父母の家の夢なんだけど・・・

 

こういう経験ありますか?

 

すっかり忘れていた小学校時代の

友達が夢に出てきて、

 

「ああ~そんなやつもいたなあ」

 

と急に鮮明に思い出す、

なんてこと。

 

僕はわりにそういうことがあって、

 

特に夏休みとか単調な生活をしていると、

やたらに昔の思い出が夢に出てくる。

 

中学を卒業して春休みに入った途端に、

小学校のクラスメートが夢に出てきて、

 

忘れていた顔や名前を思い出したりとか。

 

それで今年大学を卒業して、

今は実家で試験浪人しているんだけど、

 

このところ寝て起きて勉強という

生活パターンをしているせいか、

 

昔の夢をよく見る。

 

そのなかでも特に、

 

小学2年まで住んでいた、

祖父母の家が舞台の夢が多かった。

 

広い玄関に、上がりかまち。

 

※上がりかまち

主に玄関の上がり口で履物を置く土間の部分と廊下や、玄関ホール等の床との段差部に水平に渡した横木をいう。

 

2階へは、

家の外の階段を使って上ったこと。

 

やたら広いベランダの軒に、

スズメバチが巣を作ったことや、

 

1階の一部を酒屋さんに

賃貸ししていたこと。

 

夢自体は荒唐無稽なものだったけど、

懐かしくて、

 

目が覚めてから思い出せたことが

妙に嬉しかった。

 

※荒唐無稽(こうとうむけい)

でたらめであること。

 

その家はもう、

 

最後に残った祖母が死んで

取り壊されてしまった。

 

ある日、

祖父のお通夜の夢を見た。

 

1階の狭い一室に、

沢山の人が集まっていた。

 

その時に初めて、

祖父が死んだことを実感した。

 

そんなことを思い出しながら目覚めると、

 

僕はこの夢を弟に話したくなって、

夕飯時に切り出してみた。

 

「なあ、おじいちゃんの家って、

これこれこういう間取りだったよな」

 

弟はちょっと考え込んだが、

すぐに「そうそう」と相槌を打った。

 

「それで、1階のおじいちゃんの

お通夜やった部屋がこうこうで・・・」

 

僕がそう言うと、

 

弟は『ん?』という顔をして、

「思い出せん」と言った。

 

僕はなにか、

魚の骨が喉につっかえたような感じで、

 

夢で見た間取りが本当に正しいのか、

確認したくて堪らなくなった。

 

弟は僕より2つ下なので、

記憶に無くても仕方ないかと思い、

 

今度は母に話してみた。

 

「こうで、こうで・・・」

 

すると母は両手を打って、

 

「そう!そう!

よく覚えちゅうねえ」

 

と、おばさんくさい相槌を打った。

 

それから一週間くらいして、

またその家の夢を見た。

 

家の前の砂利道で

ケンケンパをしたことや、

 

2軒隣に精肉屋があり、

 

そこでよくチキンを買って

食べたことなどを思い出した。

 

それから、

家の2階の詳しい間取りも、

 

夢の中で走りまわったので

すっかり思い出した。

 

それでまた母に話してみた。

 

「・・・それで2階の廊下の奥に

部屋があって」

 

懐かしそうに聞いていた母だが、

そこで怪訝な顔をした。

 

「廊下の奥に部屋なんてあった?」

 

僕が、あったあった!

居間の台所の裏側の辺り!

 

と説明しても、

母は思い出さなかった。

 

母は父と結婚してから、

父の実家であるその家にやって来たが、

 

新婚時代などは

別に部屋を借りていたこともあり、

 

正味、僕と同じ期間だけしか、

その家には住んでいなかったわけだ。

 

しかし、

子供の僕が覚えていることを、

 

大の大人が忘れていることに

納得できなかったので、

 

さらにしつこく聞いたが、

どうしても思い出してくれなかった。

 

気になっていたせいか、

また3日後くらいにその部屋の夢を見た。

 

ちょっとした悪夢で、

 

殺人鬼かなにかに追いかけられ、

その部屋に逃げ込むと、

 

埃だらけなのにびっくりした。

 

追い詰められそうになったが、

 

ソファーでバリケードを作ってから、

窓を開けて飛び降りて逃げた。

 

そんな夢だった。

 

目が覚めて、

ふと思い出したことがあった。

 

窓。

 

そうだ!

 

家の正面の砂利道から見上げた2階には、

窓が一つだけあった!

 

2階の向って左端。

 

しかしその窓は雨戸か何か、

木の板で完全に殺されていた。

 

だからいつも見上げていた2階は、

のっぺりとした殺風景な印象だった。

 

あの窓は多分、

廊下の奥の部屋だ。

 

僕はどうしても

あの部屋のことが気になって、

 

普段は会話がない父に、

思い切って話してみた。

 

(続く)夢で見た、知るはずのない部屋 2/2

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