なぁ、人肉館に行かないか? 1/3

廃墟 厨房

 

「なぁ、人肉館に行かないか?」

 

夏休み。

 

私は休みを利用して、

 

久しぶりに実家のある長野県へと

帰ってきた。

 

普段は東京で働いているのだが、

実家は山間の町。

 

気温は高いが、

湿度は低く、蒸し暑くない。

 

左右にはアルプスが走り、

絶景を作り出している。

 

都会に比べ、

 

とても快適な気候と、

久しぶりの故郷に嬉しさを感じながら、

 

私は実家へ向かった。

 

どうやら家には誰も居ないようだ。

 

自営業を営んでいる父と母は、

今働きに出ている。

 

兄弟も何処かに遊びに行っているようだ。

 

私は居間に腰を下ろし、

一息つこうと考えたが、

 

先日までの仕事の疲れと

朝早く家を出たことが重なってか、

 

私は極度の疲れを覚え、

 

家族の帰りまで少しの間を

眠ることにした。

 

ピピピピピ。

ピピピピピ。

 

携帯電話の着信音で、

私は目を覚ました。

 

どうやら私の帰郷を知っている

友人からのようだ。

 

用件は晩御飯の誘いだった。

 

久しぶりに実家に帰ってきたこともあり、

家族と食事をとりたいと思っていたが、

 

やはり友人と会えるのは嬉しい。

 

私は二つ返事で誘いに乗った。

 

電話を切り、時計を見る。

 

時間はもう18時を回っている。

 

だいぶ寝てしまったようだ。

 

夕日が部屋の中を

オレンジ色に染めている。

 

眩しくて、目がうまく開かない。

 

相変わらず、

まだ誰も帰って来ていないようだ。

 

顔を洗って、

母に食事に出ることをメールで伝えた。

 

身支度を整え、

私は車で友人の家に向かった。

 

友人の家に着き、呼び鈴を鳴らすと、

ドアから懐かしい顔が覗いた。

 

久しぶりに会った友人と、

たわいのない会話をし、

 

その後は近所にある食堂へ

行くことになった。

 

昔の思い出話や最近の状況を

お互い話ながら食事を済ませ、

 

そろそろ店を出ようとした時、

友人が顔をわくわくさせながら言った。

 

「なぁ、人肉館に行かないか?」

 

人肉館とは、

地元にある心霊スポットの内の一つだ。

 

それは、町外れにある温泉街から

少し山を登ったところにある廃墟で、

 

噂では昔、焼肉屋だったが、

 

経営難で資金繰りが上手くいかず、

店主が殺人を犯し、

 

人肉を商品として出していたという、

いわくつきの場所だ。

 

地元では割と知られている話だが、

私の周りでそこを訪れている人はいなかった。

 

始めは乗り気ではなかったが、

友人のしつこい誘いと、

 

オカルトが満更嫌いでもないこともあって、

行ってみることになった。

 

時間は21時を回っていた。

 

私たちはネットで人肉館の場所を調べ、

私の車で早速向かった。

 

車を走らせること30分。

 

人肉館がある山の麓までたどり着いた。

 

山の入口には何故か鳥居があり、

その奥に道が延びている。

 

車のヘッドライトをハイビームにしても、

 

鳥居から少し先は全く見ることが出来ない

漆黒の闇だ。

 

地図では、人肉館はここから少し

進んだところにあると示されている。

 

幸いにも車は通れそうで、

歩いて登る心配はないようだ。

 

私は慎重に車を進めた。

 

先が全く見えない恐怖と、

 

これから行く場所への恐怖が

アクセルを緩める。

 

道はとても狭く、

 

再び下って来るには奥にあるスペースで

Uターンをするしかない。

 

それに、この視界だ。

 

バックで下ることは朝を待たない限り、

到底無理だろう。

 

曲がりくねった坂道を登っていくと、

 

左側に今まで生い茂っていた木がなくなり、

建物が見えてきた。

 

建物の横で私は車を停車し、

 

助手席にいる友人が

懐中電灯で建物を照らす。

 

かなり大きい建物だ。

 

一面が白い壁だが、

コケが至る所に付いている。

 

そして以前は看板が付いていたのだろうか、

金属のフックが錆だらけになっている。

 

目の前にはロビーのような

広いスペースが広がり、

 

ガラスが所々に散らばっている。

 

以前は一面ガラス張りで、

 

中の様子が外からでも分かるような

造りだったのだろと想像する。

 

そして、

 

奥には机や椅子が目茶苦茶に壊され、

散らかっているのが見える。

 

恐らくここが『人肉館』だと確信する。

 

私は車のエンジンを切った。

 

エンジンを切ると、

静寂がさらに強くなる。

 

虫の泣き声すら聞こえない、

静まり返った森。

 

車のヘッドライトを消すのが怖い。

 

真っ暗な森の中に、

たった二人。

 

言いようの無い恐怖に包まれる。

 

私はヘッドライトを消した。

 

ここから頼りになるのは、

二人が持っている懐中電灯だけだ。

 

私は腕時計を照らして時間を確認する。

 

時間は22時を回っていた。

 

人肉館に入る方法は、

 

入口らしきドアもあるが、

ガラスが割れているため、

 

正面ならば何処からでも入れそうだ。

 

しかし、建物の左右には、

木が生い茂るように生えており、

 

とても建物の横を通って

奥に行くことは出来ない。

 

友人が先頭を切って中に入っていく。

 

床一面にゴミが散らかり、

 

壁には以前訪れた人が

書いたのであろう落書きが、

 

至る所に書かれている。

 

それにしても怖い。

 

懐中電灯しか頼れる明かりが無く、

 

懐中電灯を次の場所に移した時、

そこに何か居るんじゃないかと考えてしまう。

 

入口から入り、少し奥に進むと、

厨房に入った。

 

調理台は錆(サビ)に覆われ、

天井は蜘蛛の巣に覆われている。

 

包丁などの調理器具は、

何も置かれていない。

 

ここも入口と同様に、

カップ麺等のゴミが散乱している。

 

奥にいる友人が私に懐中電灯を向け、

こっちに来いと合図をしている。

 

どうやら、

さらに奥に続く道を見つけたらしい。

 

(続く)なぁ、人肉館に行かないか? 2/3

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