霊が見えてしまう父親
高校の頃の友人には、
霊が見える父親がいた。
その父親(仮にR氏とする)は、
ユネスコホテルの職員をしている。
年中、全国にあるホテルを
飛び回っているらしい。
そのR氏は毎年夏になると、
とあるホテルを訪れることになっていた。
そのホテルは4階建ての本館と別館があり、
その間は渡り廊下で繋がっている。
7年ほど前にそのホテルに訪れた時、
渡り廊下の4階から、
下にいるR氏を女の子が見ていた。
近づいてくる女の子。そして・・・
小学校低学年ぐらいで、
どこにでもいそうな普通の女の子。
普通と違うところは、
彼女は既に死んでいるという事。
R氏にはそれがすぐに分かった。
「可哀そうに・・・
成仏するんだよ・・・」
心の中で手を合わせ、
ホテルの職員事務所へ歩いて行った。
仕事を片付け、
常駐の職員と雑談をしていた。
先程の女の子の事を話そうとしたが、
見えない人にわざわざ伝えることも
ないかと思い直し、
そのままホテルを後にする事に。
帰りがけにもう一度渡り廊下を見てみると、
まだ4階からこちらを見下ろしていた。
次の年も、
去年と同じように4階の渡り廊下から
女の子はR氏を見ていた。
その次の年も、
そのまた次の年も・・・
女の子を毎年見かけるようになって
5年ほど経った夏、
今年も同じ所にいるのだろうと、
R氏は渡り廊下を見上げた。
女の子は今年もいた。
3階の渡り廊下からR氏を見下ろしている。
・・・3階?!
R氏は不思議に思ったが、
そんなこともあるのだろうと勝手に納得し、
例年通り仕事をこなしてホテルから移動した。
「次の年、そのホテルに行ったら、
2階からお父さんを見てるんだ。
それが去年の話で、
今年は目の前にいるのかな?」
と、この話を娘(俺の友人)に聞かせて、
R氏はそのホテルに出かけて行った。
娘は父親がこのまま帰って来ないような
気がしてならなかった。
「ただいま」
父親が帰ってきた。
とりあえず無事のようで、
娘はホッと胸を撫で下ろす。
「おかえり~。どうだった?」
小走りで玄関まで父親を迎えに出た。
しかし、
父親の様子がおかしい。
どことなくバツが悪そうに、
娘に話しかける。
「ついてきた・・・」
父親は声を震わせながら、
自分の脇の空中を指差し、
そう言った。
その日のうちに母親と娘は、
R氏を一人置いて家を出た。
その後、まもなく離婚。
R氏は今でも一人でその家に住んでいる。
いや、二人か・・・
(終)