とある病院で起きた妊婦の幽霊騒動

手術室 病院

 

私が勤める病院での出来事です。

 

その日、私は夜勤の為、

夜に病院へ出勤していました。

 

すると、

夜遅くに急患で妊婦が運ばれて来ました。

 

その妊婦は外来で何度か

顔を見かけたことがある女性で、

 

私の記憶だと彼女は妊娠8ヶ月目で

経過も順調だったはず・・・

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妊婦とお腹の子はどうなってしまうのか・・・

どういう訳か、

誰が見ても様子がおかしく、

 

顔色が悪く、呼吸も乱れ、

さらには意識もありませんでした。

 

これは一刻を争うと思った私は、

急いで当直のM先生を呼びに走りました。

 

・・・が、当直室には姿がなく、

 

M先生の研究室や心当たりの場所は

全部探し回ったのに何処にも見当たらず・・・

 

携帯電話でも呼び出したのですが、

応答がありませんでした。

 

そんなことをしている間にも、

 

急患で運ばれて来た患者さんの容態は

悪化するばかり。

 

(あぁ・・・よりにもよって

何でこんな大変な時に・・・)

 

(M先生はどこにいるんだろう・・・)

 

途方に暮れて廊下を歩いていると、

 

空室のはずの病室の扉がスーッと開き、

中からM先生が顔を出したのです。

 

私は驚きながらもM先生に、

 

「先生!大変なんです!!

急患で運ばれて来た患者さんが!!」

 

とまで言いかけた時、

私は言葉に詰まってしまいました。

 

M先生が出てきた病室から、

 

先生に続いて先輩看護師のHさんが

出てきたからです。

 

二人は私に見られても、

何ら悪びれる様子も慌てる素振りもなく、

 

呆気にとられている私を横目に

無言で持ち場に戻って行きました。

 

見てはいけないものを見てしまったバツの悪さで、

どうにもいたたまれない気分になっていた私・・・

 

「俺のことを探していたのか?」

 

というM先生の言葉で我に返り、

 

慌てて急患の患者さんが運ばれたことを

報告したのです。

 

けれども・・・

 

患者さんの所へ戻った時には、

時すでに遅し・・・

 

もう患者さんの容態は、

取り返しがつかなくなっていたのです。

 

なんとかお腹の子供だけでも・・・

と願ったのですが、

 

悲しいことに手遅れで、

 

大切な命を二つも同時に

失うことになってしまったのです。

 

急患で運ばれて来た患者さんと一緒に

病院へ来ていたご主人は、

 

M先生から奥さんと子供のことを聞かされ、

 

最初のうちは何を言われているのか

理解出来なかったようです。

 

処置室のベットで横たわっている

物言わぬ奥さんの姿を見るや、

 

がむしゃらに奥さんの体にしがみ付き、

 

「ぅ・・・ぅ・・嘘だろ?

嘘だって言ってくれ!!

 

なぁ・・・夢だって・・・

悪い夢だって言ってくれよ!!」

 

と大声で泣き叫ぶばかり。

 

待望の子供の誕生を間近に控え、

毎日が幸せの連続だったに違いない・・・

 

それを突然に奪われてしまったのですから、

それも仕方がありません。

 

そのご主人の姿は、

誰もが口を開くことを躊躇(ためら)うほどでした。

 

そして、その不幸な出来事から

数日経ったある日のこと。

 

連日の夜勤で疲れていた私は、

ウトウトしかけていました。

 

時間は午前1時を過ぎた頃だったと思います。

 

そんな真夜中にも関わらず、

 

私のいるナースステーションに、

数人の入院患者さんが揃って顔を出したのです。

 

「どうしたんですか?

こんな時間に皆さんお揃いで?」

 

という私の問い掛けに、

一人の入院患者さんが言いました。

 

「私らの部屋にお化けが出るのよ・・・」

 

(えっ?)

 

私は予想もしなかったその意外な言葉に、

思わず吹き出しそうになったのですが、

 

ナースステーションに来た患者さん達の

あまりにも真剣な顔に、

 

とても笑って聞き流すような雰囲気では

ありませんでした。

 

どういう状況だったのかを尋ねてみると・・・

 

A「最初は泣き声だったのよ・・・

何だかとても悲しそうな声だったわ・・・」

 

B「そうなのよ・・・

最初は私も空耳だと思っていたんだけど・・・」

 

C「でもね、でも声だけじゃないのよ!!

お腹の大きな女の人が立っていたの!!」

 

D「だけど・・・その女の人が

悲しそうな顔をして泣いているのよ・・・

 

まるで誰かを探しているみたいだったわ・・・」

 

それを聞いた後、

私はすぐに患者さん達の病室へ行きました。

 

しかし、

それらしい気配さえ感じられませんでした。

 

だけれど・・・

 

彼女達が嘘をついているという風にも

感じられなかったし、

 

その時は何故か私自身も、

素直に彼女達を信じようと思ったのです。

 

ところが・・・

 

その幽霊騒動は、

その日だけではなかったのです。

 

毎日どこかの部屋で「幽霊を見た!」

という人が出てきて、

 

噂はあっという間に病院中に

広がってしまいました。

 

それから10日ほど経った頃でしょうか。

 

その噂が原因で、

 

患者さんの中には気味悪がって

他の病院へ転院する、

 

と言い出す人まで現れる始末。

 

病院側もこの噂を単なる噂として

放っておけないと判断したのでした。

 

そして私が夜勤を勤める日に、

とうとう噂の妊婦の幽霊を見てしまったのです。

 

それも、

とんでもない事件の真っ只中で・・・

 

深夜、私は規定の見回りを終え、

 

ナースステーションに戻ろうと

病棟の廊下を歩いていた時のこと。

 

誰もいないはずの個室から突然・・・

 

「ギャーッ!!!」

 

と、大声で叫ぶ男の人の悲鳴が

聞こえてきたのでした。

 

私はビックリして、

 

その悲鳴が聞こえた個室のドアを開けて

中を覗いてみると・・・

 

白衣を真っ赤な血に染めて、

 

恐怖に引きつった顔のまま

ベット脇の床にうずくまる、

 

M先生の姿があったのでした。

 

その傍らには、

あの時にM先生と一緒にいたH先輩・・・

 

H先輩は自分の首筋に突き刺さったハサミを

両手でしっかりと握ったまま、

 

無表情な顔で病室の壁に寄りかかるように

立っていました。

 

そしてもう一人・・・

 

そのH先輩の横には、

妊婦らしい女性の姿が・・・

 

まるで湯気か煙でも見るかのように

薄ぼんやりと私の目には見えたのですが、

 

その姿は間違いなく、

 

あの日に急患で運ばれて来た

妊婦の姿だったのです。

 

この出来事を境に、

 

誰一人として幽霊を見たという人もいなくなり、

幽霊騒動も収まったのですが・・・

 

H先輩は出血多量のショックが原因で、

植物人間状態になってしまいました。

 

(終)

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