葬儀の列席者を見つめる女性
15年くらい前、不思議な体験をしました。
福井の田舎で高校生の僕は、
友人の母親のお通夜に行きました。
崖崩れか何かの急な事故で
亡くなったとのことでした。
葬儀場は木造の古い公民館で、
息子の学校関係者ばかりが目立つ、
寂しい葬儀でした。
会場に入るとき、入り口横のガラス窓を
何気なく見上げると、
ガラスいっぱいに顔を近づけている
中年の瘠せた女性と目が合いました。
喪服を着ているようなので、
親戚か近所の人が手伝いに来て、
台に乗っかって上にあるものを
取ろうかとしていると思いました。
中に入ると中央に写真があって、
さっきの人が写っていました。
でも式の間は、親戚だから
似ているぐらいに思って、
あまりピンときませんでした。
しかし会場を出るとき、
まさに背筋が凍りついたのです。
女の人がいた窓の内側には、
村の祭礼用の道具がびっしり仕舞ってあって、
人の入れるスペースなどありません。
その後10年ほどは、怖くて怖くて、
ずっと自分の胸にしまっていました。
今から考えると、彼女はあそこに立って、
ずっと列席者を見ていたんですね。
色白の頬と、くっきりした眉毛が
今でも脳裏に焼き付いています。
(終)