自身の葬儀の準備まで手伝う祖母
これは、友人の話。
実家の祖母が急死した。
慌てて帰郷し、なんとか通夜には間に合った。
一息つく間もなく、翌日の葬儀の準備を手伝わされたという。
葬儀社との打ち合わせを終え、湯呑みを掻き集めていた母の手伝いに向かう。
先に話した折、湯呑みの数が足らないと頭を抱えていたからだ。
「お母さーん・・・って、あれ?」
意外にも、母はきちんと湯呑みを揃えていた。
お義母さんがね・・・
食堂の大机の上に、柄の揃った湯呑みが丁寧に並べられている。
なぜか母はその前で、呆けたように座っていた。
「よくこれだけ同じ柄の物を集められたね」
労って声をかけると、母は首をふるふると振った。
「お義母さんがね、お義母さんがね、蔵から出してくれたの」
何を言っているのか、まったく分からない。
母がお義母さんと呼んでいたのは死んだ祖母だけだ。
祖母は今、通夜が開かれた広間でそのまま安置されている。
「湯呑みが足りなくてね、お隣さんから借り集めようかと思案していたら、ガラッと戸が開いて、お義母さんが、お義母さんが入ってきたの。
びっくりして声をかけたのだけど、何の反応もなくて、奥の方へスーッと。
あなた達は打ち合わせでいなかったから、慌てて私一人で追いかけたのね。
そうしたらお義母さん、蔵に入って隅の方から箱を引っ張り出したの。
中をあらためると、この揃いの湯呑みがね、入っていたの」
「・・・おばあちゃんは?」
「箱の中身を調べているうちにね、いつの間にかいなくなっちゃったの」
遺体の様子を見に行くから一緒に広間に行ってくれないか、そう母は頼んできた。
二人して恐る恐る、広間に足を踏み入れた。
何もおかしいところはなかった。
ただ、閉められていたはずのお棺の蓋が半分ほど開いていた。
「自分の葬儀の準備まで手伝っていくなんて、しっかり者のお袋らしいや」
父は平然とそう述べただけだった。
葬儀は何事もなくしめやかに行われた。
祖母が棺から起き上がるのではないかと、友人は葬儀の間中ドキドキしていたが、そのようなことはなかった。
少しホッとして、そして同時に少し寂しかったという。
(終)