首を左右に振って笑う雛人形
私が幼稚園の頃の事です。
うちは2人姉妹でしたが、家にあった雛人形は段飾りの立派なものではなく、ガラスケースにちんまりと収まった雛人形セットでした。
ひな祭りの頃になるとケースごと居間に飾られ、時期が過ぎると棚の上に置かれる程度のものでした。
それでも一応、お雛様、お内裏様、3人官女が揃っており、箪笥や牛車、造花の桜と橘、木でできた菱餅や小さな道具類が並べられていました。
糸のような目に、おちょぼ口の人形たち。
見ようによっては笑っているようにも見えますが、全体的にはむしろ無表情なものでした。
私は雛人形には興味があまりなく、ただミニチュアのようなお飾りだけを愛でていました。
30年経った今でも・・・
ある夜中、私はトイレに起き出しました。
トイレは居間を横切った向こうにあります。
行く時には雛人形のケースに背を向けていましたが、戻る時にちょうどケースの中身が見えたのでした。
薄暗い居間のケースの中で、雛人形が一斉に音もなく首を左右に振って笑っていました。
糸のような目はそのままでしたが、おちょぼ口はニンマリと左右に伸び、なんともいえない邪気を発しているようでした。
私は転げるように部屋に戻り、布団を被って震えて夜を明かしました。
その後は特に怪異もなかったのですが、その時以来、私は酷い人形嫌いになってしまいました。
その人形は未だに実家に飾ってあります。
雛人形の首が果たして左右に揺れるものかどうか・・・。
多分しっかりねじ込まれていて、揺らすことなんか不可能なんだろうとは思うのですが、手に取って確かめる勇気は30年経った今でもありません。
(終)