想いを詰め込んだ穴
子供の時、襖に開けた穴に、「嫌いなヤツの悪口や呪いの言葉を書いて隠す」という、くだらない一人遊びをしていたことがある。
高校の時に父が死んでから、母は旅館に住み込みで働くことになり、俺は家で一人暮らしすることになった。
寂しい時になぜか、母や死んだ父の事より、昔に飼っていた犬をよく思い出した。
「あれをやってみよう」と襖に穴を開けて、呪いの言葉ではなく犬の写真を丸めて入れた。
夜中に襖の穴を見ていると、何となく穴の向こうから犬がこっちを覗いているようで、怖さより懐かしく癒されるような不思議な感じがした。
それからは、死んだ父や祖父母、会いたいけれどこの世にいない人達の写真や手紙を、穴を開けて入れていた。
ある日突然、母から電話で「実は付き合っている男の人がいて、その人と再婚したい」と言ってきた。
母に裏切られたようで、俺は母に対するありとあらゆる呪いの言葉を書いて穴に入れた。
今は母とも和解して、この家で一緒に暮らしている。
職場に片想いの女性がいるが、いずれこの家で一緒に暮らすことになるだろう。
他の男と結婚した事は許せないが、母と同じで後から話せば俺の気持も理解してくれると思う。
穴だらけになった襖を見て、そう確信した。
(終)