タクシーに乗るのが怖くなったワケ

タクシー

 

もう10年以上も前の事だが、とある県の24時間サウナで意気投合した男の話。

 

その男には、結婚を考えていた女性がいた。

 

ある日の晩、一緒に繁華街で遅い晩飯を済ませて軽く飲んだ後、彼女をタクシー乗り場まで送った。

 

そして男が「次はいつデートしようか?」と浮かれて聞くと、彼女は「うーん、もう会えないかもね・・・。今日でお別れかな」と言った。

 

突然の別れ話に、男は呆然として言葉が出なくなった自分を尻目に、タクシーのドアが閉まり発車した。

 

すると、目の前の交差点で猛スピードを出している車がタクシーの横っ腹に突っ込んだ。

 

それまで呆然としていた男は衝突音で我に返り、慌ててタクシーまで走った。

 

・・・が、後部席は見るも無残な状態で、一面真っ赤になった車体を見て、彼女を助ける事は不可能だと悟った。

 

「今日でお別れかな」

 

瞬時、その言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡り、彼女はもしかしてこの事を予知していたのか?と、偶然だと片付けるには不自然な彼女の言葉に全身の毛が逆立つ様な寒さを覚えた。

 

それ以来、タクシーに乗ろうとする度に彼女の言葉が頭の中を走り、次にいつ自分がその言葉を口にしてしまうのかと思うと怖くてタクシーには乗れなくなった。

 

「最近は歩いて行ける距離であれば乗り物は使わずに徒歩で向かうよ」と、彼は苦笑いを見せたが、彼のせいで俺もそれから暫くはタクシーが怖かったのは言うまでもない。

 

(終)

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