元交際相手の男に殺された女の執着

幽霊

 

警察官の叔父から聞いた話。

 

叔父は警視庁に勤めて30年になるベテランで、今も第一線で活躍し続けている。

 

その叔父から警察絡みの怖い話を小さい頃から何度も聞いてきたが、その中でも特に怖かったものを紹介する。

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警視庁内でもタブー視されている?!

ある日、女性が撲殺される殺人事件が発生した。

 

犯人は元交際相手の男性だった。

 

この男性、女性を殺した後に逃亡していたので、捕まるまでに2週間かかっている。

 

原因はやはり痴情のもつれだが、男性側が一方的な理由で殺したわけではなく、むしろ女性側に非があったようだ。

 

殺された女性の美穂(仮名)は、日常的に元交際相手の男性の光二(仮名)をストーカーしていた。

 

しかし、ストーカーという言葉自体が世間にあまり普及していない時代の事件だし、ましてや女性から男性のストーカーなんて到底理解されない。

 

光二は警察に掛け合ったが、あまり熱心には聞いてもらえず精神的に参っていたそうだ。

 

警察は身内の不手際も絡んでおり、さっさと片付けてしまいたい事件だった。

 

美穂の家を捜索して、ストーカーの証拠を見つけることにした。

 

だが、美穂の家族が美穂の部屋だけは捜索を認めない。

 

その他の部屋の捜索は協力してくれたのに、美穂の部屋だけは捜索させないと食い下がる。

 

結局は力ずくで部屋に入ったのだが、その光景がヤバかったという。

 

美穂の部屋の壁一面が、光二の写真で埋め尽くされていた。

 

これくらいならテレビのストーカー描写で見慣れている人もいるだろうが、その写真の上から「光二死ね死ね死ね死ね・・・」『死ね』が書き殴られていた。

 

さらには、どこかで手に入れたらしい恋愛成就の不気味な人形が、あちこちに散らかって捜査員を見つめている。

 

家族が捜索させたくないというのも十分理解できる程の、おぞましい光景。

 

その頃、本庁で捜査していた叔父さん達も、奇妙な事を発見した。

 

女性が殺された場所のカメラに変なものが映っていたらしい。

 

殺された場所を定点的に撮影しているそのカメラには、死亡推定時刻と思われる時間になると、人間らしき黒い影がうろついているように見える。

 

最初のうちは叔父さん達も疲れているのかと気にしなかったが、捜査員の中で気になっていた”いわゆる見える人”がその時間に現場で張り込んでいると、本物(女の霊)が現れた。

 

その女の霊が気になって個人的に数日間張り込んでいると、だんだんと邪念というのか怨念が強くなっていくのを感じたらしい。

 

このままではヤバイと思い先輩に相談したが、頭の固い爺さん連中がそんなことを受け入れるはずもなく、逆に捜査から外されてしまった。

 

警察としても犯人は光二だと確信していたし、前述の通りこれ以上変な噂を立てられるとマズイと思ったのだろう。

 

しかし、女の霊はそこに留まるだけではなかった。

 

捜査員達が一人、また一人と体調を崩していく。

 

話を聞くよう言われた叔父さんが事情を聞くと、どうも夜中に女の霊が寝床の隣に立ち、呟きながら顔を覗いているらしい

 

この時点で『ストーカー霊』の噂は少しずつ広まっていた為、捜査を外してもらうよう頼み込む捜査員が続出した。

 

仕舞いには、爺さん連中のところにも現れたらしく、「これはヤバイんじゃないか?」という空気が本庁に広がっていった。

 

実はその頃、まだ子供だった俺もその女の霊を見ている。

 

その日、叔父さんの家に遊びに行ったのだが、親が体調を崩して迎えに来てもらえなくなった。

 

嫌な予感がしていた叔父さんは、なんとか俺を泊まらせまいとしたが、結局は一緒に寝ることになった。

 

そして、俺が人の気配を感じて夜中に目を覚ますと、叔父さんの隣に誰かいるのが分かった。

 

その時の女の霊は、なぜか叔父さんの顔を覗くようにしていなく、窓の方を向いていたので目を合わすことはなかったが、何かをブツブツと呟いているのは聞こえた。

 

だが、俺が「おじ・・・」と叔父さんに呼びかけようと声を発したところで、女の霊がこちらを見た。

 

片方の目は犯人に潰されたのか、まともに開けていなかった。

 

目が片方しか開いていないのも、また別の恐怖があった。

 

俺はとっさに目を閉じて、小一時間耐えた。

 

翌朝、叔父さんに誰か居たことを伝えると、普段温厚な叔父さんらしくなく、物凄い剣幕で怒鳴られた。

 

「そんなことは絶対にないぞ!!」と。

 

さすがに警察官の本気の怒鳴りは怖い。

 

大人になってから当時の事を聞いてみたら、叔父さんもあの時、実は起きていたらしい。

 

ただ、叔父さんは心臓に持病があることもあって、いきなりあんな顔を見たら堪らん、と目だけは絶対に開けなかったそうだ。

 

話を戻すが、捜査員が次々リタイアする中、爺さん連中も叔父さん達の説得に折れて、とりあえず映像だけでも見てみようということになった。

 

その日の前日のカメラ映像を見たのだが、少し前に見た映像より、鮮明に女の霊が認識できるようになっていた。

 

また、呟きの声も大きくなっていた。

 

ノイズが入って何を言っているかは分からなかったが、女の霊はどんどんカメラに近付いており、潰された目をカメラに押し付けながら呟き続けている。

 

この時点で、見れなくなったり退席する捜査員も。

 

叔父さん達の勇敢な捜査員も、その後に何が起こるかはさすがに見れなかった。

 

ここで、早々に捜査から外された”見える捜査員”が、鑑識と協力してある事を調べ上げた。

 

そしてノイズを取り除くと、女の霊が何を言っているかが分かった。

 

「コウジ・・・アワセロハヤク・・・アワセロ・・・」と呟いていた。

 

その後、光二は逃亡先のホテルで逮捕され、身柄を警視庁に移された。

 

光二逮捕で一安心かと思いきや、相変わらず女の霊は消えないし、捜査員も被害を受け続けていた。

 

警察は光二にビデオを見せれば何か解決するかと思ったが、これは賛否両論だった。

 

外部、とくに弁護士にでもバレれば後々めんどくさいことになる、と。

 

しかし、この事件の捜査に関わっている以外の人間にも被害が出始めた為、結局は光二にビデオを見せることにした。

 

叔父さんも同席したが、その時に何が起こったかは決して話してくれない。

 

ただ叔父さんの様子からして、とんでもないことが起こったのは確かだ。

 

光二は情状酌量も認められたが、裁判が終わった後に刑務所で自殺した。

 

補足

この事件は警察の不手際も絡んでいることもあり、警視庁内でもタブー視されているという。

 

ストーカー事件の前例として取材を試みる輩もいたようだが、ことごとく追い返されるか、金の力でやられているようだ。

 

今後、この事件が掘り起こされることはないだろう。

 

美穂の霊が今でも彷徨っているのかどうかは分からない。

 

片目の潰れた幽霊というのは目立つだろうが・・・。

 

(終)

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