こちらをジーっと見つめるお爺さん
これは、以前アメリカに住んでいた私の友人が体験した話です。
彼女は数年間、アメリカの企業で働いていました。
その会社は、かなり大きなオフィス街のビルに入っていました。
そのビルはほぼ正方形で、中央にエレベーターが付いており、東西南北どの方向にも出られる造りになっていたそうです。
ある日、友人はいつものように仕事を終え、帰宅する会社員やOLでいっぱいのエレベーターに乗りました。
1階に降り着いた時、視線を感じてふと目を上げると、こちらをジーっと見つめる一人のお爺さんと目が合いました。
そのお爺さんはオフィスビルには不似合いなラフな格好で、兵隊さんが被るような帽子を身に付けていたそうです。
ただ、その日は何か軍事的な記念日だったらしく、退役軍人のお年寄りでそのような帽子を被っている人を何人か見かけていました。
なので友人は、「どうしてこんな所にこんなお爺さんが?」と思ったくらいで、特に不審には思わなかったそうです。
目が合った時、お爺さんはにっこりと笑いました。
友人は「ん?」となりましたが、無視するのも悪いと思ったので会釈をして通り過ぎ、そのまま北側の出入口から表に出たそうです。
お爺さんは西側の出入口の方に歩いて行かれました。
友人はビルから出ると、ビルの前の広い道路を横切りました。
すると驚いたことに、ついさっきビルの中ですれ違ったお爺さんが向こうから歩いて来るのです。
先ほどと同じように友人をジーっと見つめながら・・・。
西側の出入口から出たお爺さんが、大きなビルをぐるっと回って北側までに戻り、さらに道路の向こう側まで行ってこちらに戻って来るのは時間的に不可能です。
これには、友人は驚くと同時にゾッとしたそうです。
でも、もしかすると自分の勘違いで、さっきのお爺さんとは別人なのかもしれません。
ただ今度はさすがに怖かったので、視線を感じながらも目を合わせないようにして俯いて歩きました。
しかし、すれ違いざまにお爺さんから、「また、お会いましたね」と言われたそうです。
振り返らずに速攻で逃げて来た、と友人は話してくれました。
(終)