自室のパソコンの前に誰か座っている
これは、去年の夏頃に体験した話。
大学から帰宅し、待っていた猫と一緒に2階の自室に入った。
すぐにパソコンとエアコンを起動する。
パソコンが立ち上がるまで3分近くかかるので、その間に1階のキッチンでコーヒーを淹れる。
そしてコーヒーを持って階段を上がっていると、自室から「ピピピピピピピ」と警告音が聞こえてくる。
また猫がキーボードに乗ったのかな?と思いつつ中に入ると、パソコンの前に誰かいた。
椅子に座っている。
パソコンを置いてある机は、扉から背を向ける形で配置してあるので顔は見えない。
だが、家族ではないことはすぐわかった。
両親は1階でテレビを見ており、弟は北海道の親族の元へ遊びに行っている。
そもそも背もたれを全部隠して、床の上でとぐろを巻くほどの長い髪の毛というだけで異常過ぎた。
耳障りな警告音が鳴り響く中、俺はじっと固まる。
猫はといえば、ベットの上で毛繕いしている。
(ああ、でも猫が警戒してないってことは危なくないってことかなあ・・・)
そんな風にパニックし過ぎて返って冷静に考えていると、そいつが動いた。
髪がざわっと波打ち、小刻みにガクガクと震えながら首が仰け反り始める。
もうこっちは怖すぎて声もでない。
ギシギシと椅子を揺らしながら、ゆっくりと上を向いて・・・。
でも動きは止まらずに、そのまま首の可動域を越えて逆さまの女の顔が見えた。
ごく普通の女の顔だった。
ぐちゃぐちゃになっているとか、恐ろしい形相になっているとか、そういうことは全くなく、きょとんとこっちを見て、「あ、すんません」と言った。
なぜか声は”おっさん”だった。
そしてそのまま、ふっと消えた。
まさしく煙のごとく。
警告音も一緒に。
俺はしばらく固まったままだったが、ウインドウズの起動音で我に返り、何もなかったのようにネットサーフィンをして就寝した。
部屋の明かりは消せなかった。
それから1週間は暗い所で眠れなかったくらい怖かったのだが、冷静にあの時の状況を思い出すと、なんだか妙に笑えてくる。
まず、なぜおっさんの声なんだ?
(終)