お前はまた仲間の命を奪うのか

鹿

 

昨年の初冬に体験した話。

 

その日は林業関係の取材で、「低コスト・高効率作業システム」という題目の研修会に同行した。

 

内容は、まず導入を進める作業機械の説明などを公民館で行い、その後に実際の作業風景を見学するというものだ。

 

林業関係者なら分かると思うが、グラップルとかフォワーダといった、造材や間伐で活躍する機械だ。

 

研修会には地元の林業関係者ら約40人が参加。

 

公民館での説明は何事もなく終了し、作業見学の場所へ移動した。

 

見学場所は、わりと道幅のある新道と、狭く曲がりくねった旧道に挟まれる形で存在している山の雑木林。

 

新道からも行けるのだが、目的地に行く林道が狭く悪路な上、距離が長いということで、旧道の方から入る林道を使うことになっていた。

 

取材の方はつつがなく終了した。

 

途中から雪がちらついてきたが、作業には全く問題なし。

 

取材が終わった俺は次の予定もあったので、見学会の途中で辞去して戻ることにした。

 

今にして思えば、なぜ来た道を単に戻らなかったのか・・・。

 

俺は「帰りは逆側から出よう」と思い、来た方向とは反対側の新道との合流地点に向かった。

 

1台の車も通らない道を、ゆっくりと走った。

 

路面には薄っすらと雪が積もっていたし、滑るかもしれない。

 

そう考え、時速20~30キロくらいで走っていた。

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いつでも見ているぞ

カーブの多い山道を走らせていると、突然目の前にシカが現れた。

 

多少驚いたが、かなり遅いスピードだったので、慌てて急ブレーキをかけることもなく余裕を持って車を止めた。

 

暫しフロントガラス越しに見つめ合うと、シカはガードレールを飛び越えて沢に消えていった。

 

俺はなんとなくその情景が気になり、エンジンを止めて車から降りた。

 

全く人気のない旧道は恐ろしく静かで、ほぼ無風の中を雪だけが降っている。

 

何故かとても不思議な気持ちになり、辺りを見回した時に『それ』を見つけた。

 

走ってきた方向に目をやると、路面に積もった雪にタイヤの跡が付いている。

 

だが、よくよく見ると、付いているのはタイヤの跡だけではなかった。

 

そのタイヤの跡を囲むように、大量の動物の足跡が付いていたのだ。

 

恐らくはシカ、キツネ、ウサギといった、この界隈に生息する動物のものだろう。

 

その足跡が何十と付いていた。

 

ギョッとして辺りを見回すが、動物など1匹も見当たらない。

 

そもそも、それだけ大量の動物が付いて来ていたのならバックミラーに映るはずだが、走行中はそんなものは見なかった。

 

背中に悪寒が走ったが、少し考えて、「もしかしたらまだこの旧道が盛んに使われていた時に、車に撥ねられたり轢かれたりして死んだ動物たちの霊なのかもしれない」と思った。

 

無音の中を雪が降り続けているという、なにやら感慨深い状況のせいもあったのだろうが、恐ろしさは少しずつ引いていった。

 

雪が積もり次第に消えていく足跡を見て、俺は思わず手を合わせた。

 

俺が走って来なければ静かにしていたであろう霊たちに、一応謝罪の意味も込めてだ。

 

そして、早く立ち去ろうと思って目を開けた時、それまでの神妙な気持ちが吹き飛び、一気に血の気が引いた。

 

なぜなら、車に一番近い足跡が一向に消えない。

 

それが目に入った時、確信した。

 

「連中は、まだここにいる!」と。

 

もう無理だった。

 

俺は急いで車に飛び乗り、エンジンをかけて出発した。

 

スピードを上げて1分1秒でも早く旧道を抜けたいが、スピードは出せない。

 

絶対に出してはいけない。

 

俺には確信があった。

 

「絶対に、また動物が飛び出してくる!」と。

 

原因は、あのシカだ。

 

普通のスピードで走っていたら、間違いなく接触事故を起こしていた。

 

もしあのシカを撥ねていたら、どうなっていたのか。

 

そんなことは分かりきっている。

 

後ろから付いて来ている連中が、間違いなく俺に襲いかかってくる。

 

「お前はまた仲間の命を奪うのか」と。

 

連中は、俺が動物を殺さないか見張っているのだ。

 

いや、試しているのだ。

 

予想通り、車の行く手にはどんどん動物が飛び出してきた。

 

キツネやウサギなどは車内からはよく見えなかったが、シカはみんなこちらを見ながら飛び出してきた。

 

どれだけのカーブを曲がり、どれだけの動物が飛び出してきたのか分からない。

 

周囲全てから、動物たちに追い立てられている感覚に必死に抗い、やっと新道との合流地点が見えた。

 

飛び出してくる動物をよけ続けた俺は既に疲労困憊で、新道に合流する直前で車を止めた。

 

新道には数台の車が往来している。

 

ようやく動物たちの試練から開放された、と俺は大きく息をついた。

 

若干震える手でタバコに火をつけ、人心地を付いた。

 

それがよくなかった。

 

油断して、バックミラーを見てしまったのだ。

 

その光景に、瞬時にして総毛だった。

 

おびただしい数の動物たちが、旧道の方からこちらを見ていた。

 

あれ以来、車を運転していると、よく動物を見かけるようになった。

 

過敏になっているだけなのかもしれないが、シカやキツネに遭遇する回数が増えたのは確かだ。

 

それが本物なのか、あの時に付いてきた連中なのかは分からない。

 

ただ彼らを見ていると、「いつでも見ているぞ」と言われているような気がする。

 

あなたも車を運転している時に、じっとこちらを見ている動物に遭遇したら注意を。

 

それは、あなたを試そうとしている霊かもしれない。

 

(終)

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