幼児退行してしまった友達のお父さん
これは、ダイゴ君のお父さんの話。(名前は仮名)
ダイゴ君は火事で死んだ。
それも、お父さんのタバコの火が原因で。
息子は死に、妻には責められ、ダイゴ君のお父さんは心を病んでおかしくなり、幼児退行してしまった。
※幼児退行(ようじたいこう)
歳相応の状態に比べて、人格や知性が幼い子供のように未発達状態に変わってしまう症状で、「子供返り」「赤ちゃん返り」ともよばれる。(ニコニコ大百科より)
・・・というより、自分自身をダイゴ君だと思うようになった。
真実を知った俺は泣いた
その時のダイゴ君のお父さんは27歳。
しかし自分を幼稚園児だと思っているから、当時は小学生だった俺のことを「お兄ちゃん」と呼ぶ。
よくスーパーなんかにあるゲームコーナーで、何度も一緒に遊んだ。
周りの大人は同情した目で見たり、自業自得だという人もいた。
だが、ダイゴ君のお父さんは本当にいい人なんだ。
幼児退行してしまった後も、虐められている子を助けたり、悪いことをしている子を注意したりと。
子供達の中では「ダイゴ君」と呼ばれ、すんなり受け入れられていた。
でもある日、事件が起きた。
都会から越してきた親子の娘が行方不明になり、警察が出てくるまでの大事になった。
娘さんはすぐ発見されたが、一緒に遊んでいたのがダイゴ君のお父さんで、娘の母親はダイゴ君のお父さんが「わいせつ目的で誘拐した」と言って被害届を出した。
周りの人達がいくら事情を説明しても、母親は余計にヒートアップしてしまい、結局はダイゴ君のお父さんは捕まってしまった。
その日以来、会えていない。
その2ヶ月後に放火犯が捕まった。
そして、その放火犯はダイゴ君の家も放火したことを自供した。
そう、あの火事はダイゴ君のお父さんのタバコが原因ではなかった。
それを知った俺は泣いた。
ダイゴ君のお父さんは虐められていた俺を助けてくれ、友達の輪にも入れてくれたのに、俺は何も助けることが出来なかったからだ。
息子が死んだ時は「人殺し」と責め、病んでからは同情し、捕まったら批難し、原因が別にあったことが分かったら放火犯を鬼のように責め立てる、そんな周りの大人達にも腹が立った。
当時は大人が大嫌いになった。
もちろん全て実話です。
(終)