手をあげて「よぉい!」と挨拶をするおじさん
その昔、俺の実家の近所には一人暮らしのおじさんが住んでいた。
平日の午後になると家の前にイスを置いて座り、下校する子供たちに手をあげて「よぉい!」と挨拶をするおじさんだった。
さすがに台風や大雨の時には居なかったが、雨の日も雪の日も傘をさしてイスに座っていた。
俺が高校生になった頃、足を悪くされて家から出られなくなったそうだが、家の前の通りが見える2階の部屋のベッドから「よぉい!」と手を振っていた。
実はそのおじさん、少し心の壊れている方だったが、子供たちもみんな「よぉい!」と返すくらいに親しまれていた。
現在、おじさんはもう亡くなられていて、その家は空き家になっている。
そして先日、久しぶりに実家へ帰った時にその家の前を通ると、「よぉい!」という声が聞こえ、見上げると2階の部屋の窓からは手が見えた。
近所の同世代の奴らと飲んだ時にこの話をしたが、同じような経験をしたという奴が何人もいた。
でも今の子供たちは、そんな声を聞いたことも、手も見たことがないという。
ただ霊的なものというよりは、当時を思い出した俺達が懐かしんで昔を感じているのかな、と少ししんみりした。
(終)