映像の文字起こし作業での不可解
私は在宅ワークで動画編集をしているが、その中に不可解なものが混ざっていることがある。
普段は会社のプレゼンやセミナー、解説教材や結婚式などの動画が多い。
その中に混じって、ひたすらお経を読む映像があったりする。
それもほんのりと怖いのだが、私が見た中で一番怖かった映像の話をしよう。
その映像は、何も映っていない真っ暗な画面からスタートした。
次第にゆっくりと時間をかけて、女性のような人の顔が浮かんでくる。
おそらく目の錯覚を利用した映像なのだろうが、依頼内容が文字起こしだった為に全てを見た。
そして見終わった後、私はクライアントへこういった連絡をした。
「音声は一つも確認できなかったので文字入れはしていません。申し訳ないのですが、それでも料金は頂きます」
そう伝えたところ、クライアントはあっさりと了承した。
料金は文字起こしの場合、1分あたり50円。
400分の映像だったので2万円を頂き、再度依頼された。
「今度はしっかりと音を大きくして文字起こしをしてください」
そう言われてしまい、もう一度同じファイルの映像を見ることになった。
この時、心の中ではタダで2万円という感覚だったのだが、認識を改めた。
今度は違う位置に男性の顔が現れ、「あぁ・・・」、「がぁ・・・」、「しにたい」などの音声があった。
夜中に作業をしていたのでとても怖かったのだが、きちんと文字入れをして確認作業をしたところ、そのコマでそんな言葉は発せられていなかった。
そして再び映像を見返すと、またもや違う顔が現れる。
これは目の錯覚なんだ、そう自分に言い聞かせながらも新しく聞こえた声を上書きした。
クライアントは「丁寧なお仕事ありがとうございました。また縁があれば依頼したく思います」と、最高の評価を私のアカウントに付けた。
それから依頼はないが、個人的に凄く怖かった。
(終)