ふくろさん 2/5

「さっきは『ふくろさん』って言うたけんど、

名前なんてあって無い様なもんやけぇ。

これには。

 

うちの親父なんかは、

ハリネズミさま言うとったわ」

 

社の屋根に手を乗せて

神主さんが言う。

 

K「こいつに針を刺すと、

 

過去の罪とか過ちが消えるって

言い伝え、

 

本当ですか?」

 

Kの言葉に、

僕は針だらけの袋を見やった。

 

なるほど、

 

ただの袋では無い

と言うことか。

 

でも、そんな言い伝えがあるような

大層なモノには見えないのだけれど。

 

「そうな。

 

言い伝えがあるんはほんまよ。

信じるか信じんかは人次第やけんど。

 

村のジジババらあはまだ信じとって、

刺しに来るもんもおらあな。

 

・・・君らも刺すか?

 

何かやましいことでも

あるんやったら」

 

僕らは互いの顔を見合わせる。

 

僕は首を横に振って、

Kはへらっと笑い、

Sは小さく肩をすくめた。

 

三人とも、やましいことなど

何も無いと思っているのだろう。

 

バチ当たりな連中である。

 

「はっはっは。

ほうかほうか。

 

真っ当な人生を送りゆうようで

何より何より」

 

そう言って神主さんは

可笑しそうに笑った。

 

「じゃあ、私はちょっくら

向こうの方を掃いてくるきよ。

 

なんか聞きたいことがあったら

呼びんさい」

 

神主さんが本殿の方へ

行ってしまい、

 

残された僕ら三人は、

 

改めて社の中の『ふくろさん』を

じろりじろりと観察していた。

 

S「針を刺すと過ちを払う袋、か。

初めて聞いたな」

 

とSがぽつりと呟く。

 

「『ふくろさん』って名前が

どうもなあ。

 

それだと頭に『お』を付けたら

お母さんになっちゃうし」

 

と僕。

 

S「正式な呼び名は無い、

って言ってたろ。

 

その『ふくろさん』も、

参拝客の間で広まった名前だろう。

 

・・・で、結局のところだ。

 

俺らは今日、この袋を

ただ拝みに来ただけってことか?」

 

そう言って、

SはKの方を見やった。

 

それは僕も思っていた。

 

確かにこの幾本も針の刺さった袋は

異様ではあるけれど、

 

Kのオカルトアンテナに反応する程の

物件では無い気がする。

 

言ってしまえば、

 

この袋はそこらの寺に置かれている

仏像とさほど変わりはない。

 

Kは「うはは」と笑う。

 

K「んなわけねーじゃん。

 

それと、今日拝みに来たのは

この袋じゃねーよ」

 

そしてKは僕とSの胸ぐらを掴み

自分の方へと引き寄せると、

 

K「拝みに来たのは、

この袋の中身だ」

 

囁く様な声で、そう言った。

 

袋の中身。

 

僕は何となく、

 

綿でも詰まっているのだろうくらいにしか

思っていなかったのだけれど、

 

Kの口調からすると、

まあ綿ではないみたいだ。

 

K「この袋には噂があるんだよ。

 

針を刺した瞬間袋が動いたり、

鳴き声を上げたり。

 

・・・中には動物が入ってんじゃ

ねえかってな。

 

火の無いところにゃ煙は立たず。

 

本当に動物か、

もしくはそれ以外か・・・」

 

その瞬間、

辺りに何かの鳴き声が響いた。

 

僕は思わず社の中の袋を見る。

 

けれども鳴き声は頭上からで、

カラスだろうか、

 

黒っぽい鳥が一羽

空へと飛び立っていった。

 

「・・・どうやって、

見せてもらうのさ」

 

一つ息を吐いてから

僕はKに尋ねる。

 

先程話した印象では

神主さんは気さくな人柄だったが、

 

そうやすやすと自分のところの

御神体を見せてくれるだろうか。

 

それに、袋には数え切れない程の

針が刺さっている。

 

袋を開けて中を見るには、

 

これらを一本一本

抜かなくてはならないだろう。

 

K「別にこの目で見ないと

収まらねーってわけじゃねえよ。

 

ま、手っ取り早い方法は

神主のおっさんに訊くことだよな。

 

そのために電話したんだし。

 

答えてくれるか知らねーけど」

 

「訊くだけでいいん?」

 

K「それで納得出来りゃあな」

 

というわけで、

神主さんの元へ話を聞きに行く。

 

彼は本殿の周りの掃除をしていた。

 

「最近掃除もサボっとったき、

えらいことになっちゅうな。はっは」

 

僕らが近づくと、

 

しゃがんで本殿の下を掃除していた

神主さんは笑いながらそう言った。

 

そして腰を叩きながら起き上がる。

 

「なんぞ聞きたいことでもあるかえ」

 

K「あーはい。

 

あの『ふくろさん』の中って、

何が入っているんですかね?」

 

何の探りもひねりも入れず、

ストレートにKは尋ねた。

 

一呼吸程おいて

神主さんがKを見やる。

 

「聞いてどうするよ。

大学のレポートにでも書くかえ?」

 

K「あ。そのつもりっす」

 

嘘だな、と僕は思う。

神主さんは穏やかに笑った。

 

「メモの用意を忘れとるぞ」

 

その言葉にKは少しうろたえる。

 

その様子を見て、

神主さんはまた「はっは」と笑う。

 

(続く)ふくろさん 3/5へ

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