隣接しながら相反する二つの神社 1/2
私が27歳の時、
妹と共に上京していた頃の話。
当時働いていた会社の近くに、
隣接するように二つの神社があった。
両方とも駅前にある。
一方はK神社、
もう一方はY神社。
どちらも有名な神社で、
受験シーズンになれば、
Y神社はテレビに出る事もある。
このY神社は学問の神様として有名だが、
非常にヤバイ。
それが神社周辺だけの事なのか、
それとも神社自身なのか、
中に入って確認していないので
定かではないが・・・
私は最悪死んでいたのかも知れない・・・
様子を見るにも、
昼間でも入りたくなかった。
会社も駅から徒歩五分ほどの場所にあったのだが、
駅からの道が二つに別れる。
K神社ルートは、
Y神社敷地の一部を入るルート。
Y神社ルートの方が断然早く会社に入れる。
駅から二分ほどだ。
朝の時間は貴重だ。
特に私は喫煙者なので、
会社に行って早いうちから
ぼんやり煙草を吸うのに、
時間が多いに越したことは無い。
Y神社ルートに気付く前は
K神社ルートだったが、
時間短縮に朝だし大丈夫だろうと、
Y神社ルートを毎日使うようになっていた。
Y神社の前を通ると、
何か腐ったような臭いがしていたのは
気になっていた。
クサイなあと思いながらも毎朝、
そして帰りも通っていた。
二ヶ月ほど過ぎたある日、
会社から帰ってぐったりと部屋で横になって
ウトウトしていたら夢を見た。
とても古い大きな座敷のある屋敷の一室で、
私を含めて数人の男がいた。
私は大きな姿見の前で、
遊女らしき女をうつ伏せにして
押さえ込んでいる。
女は髪が振り乱れ、着物も乱れて、
あられもない姿だ。
私は何も思うことは無く、
女の髪をわしづかみにして力任せに引っ張り、
首を仰(の)け反らせている。
とても白い綺麗な首があらわになる。
その首に、
他の男が鋭い刃物を埋めてゆく。
髪を引っ張り仰け反らせているから、
傷口が『く』の字で広がっていく。
そこで、
夢の中で私の意識が起きる。
だけど行動はそのまま。
(うわぁ・・・嫌だなぁ・・・)
そんな事を思っていたら、
女の首を切り終えた刃が、
私の足のふくらはぎに食い込んだ。
そこで私は、
自分が着物を着た男だと知る。
男の意識と私の意識が重なる。
男は仲間が誤って怪我をした。
治療されて当たり前だと思う。
私は事情が分からずパニックになる。
怪我をした男が顔を上げて仲間を見ると、
仲間の男は笑っている。
三人いたと思う。
その三人とも手には、
惨殺目的のために作られたとしか
思えないような凶器を持っていた。
そして、
私を見てニヤニヤ笑い迫ってくる。
(だめだ!ヤバイ!!逃げなくては!!)
男の意識は訳が分かっていないようだった。
私は完全にロックオンされたと思った。
無理矢理にでも覚醒しようともがいた。
同時に酷く金縛りになっている。
迫ってきた男たちの持っていた凶器が、
生きたまま頭を潰すためのものだと思いながら、
無理矢理に何もかもを振り払って目を開けた。
夢から醒め、
目を開けて体も起こしたけれど、
視界が夢の片鱗を残している。
体から力が抜けて、
すぐにでも気絶しそうだった。
気合と根性で、
肉体の感覚を現実に引き戻そうとして、
私はカバンの中の携帯電話を取り出した。
その間もざわざわざわと聞こえる気配と音が、
私を飲み込もうとしているように感じた。
無理に金縛りを解いた影響か、
全身が痙攣のように震えて止まらなかった。
でも、そこで怯えて縮こまったら
事態が悪化すると思い、
本能的な危機感から動いていた。
携帯を開いて、
霊感のある友達の番号を引っ張り出す。
その間も視界は何度も見えなくなる。
なんとか電話をかけることが出来て、
コール音を聞きながら、
頼むから出てくれ!と祈った。
少し待ってから友達が出た。
「うわっ、どうしたん!?」
「ご・・ごめ・・・ちょ・・とぉ・・
こあい・・ゆめ・・み・・れ・・・」
未だに痙攣の様な震えも治まらず、
呂律(ろれつ)も上手く回らない。
声が震えてもいた。
「大丈夫?
話し聞くから落ち着いて」
友達の声に安心してか、
張り詰めてたものが一気に溶けて、
私は声を上げて泣いた。
泣きながら自分の意識を必死に保とうと、
なにか色々と話していた。
友達はそれを聞いてくれた。
落ち着いてから、
ちゃんと話そうと思った時に、
さっき見た恐ろしい夢の前にもう一つ、
奇妙な夢を見ていた事を思い出した。
夢の中の私は葬儀屋で、
顧客の家を訪問するという夢だった。
夢の中で訪ねた家で、
髪の長い女が私を出迎えて
家の中に招かれるのだが、
一歩玄関に入った途端・・・
何かヤバイ気がして、
入ってはいけない気がして、
女に適当な言い訳をして出ることにした。
「大事な書類を車に置きっぱなしに
して来てしまいました。
すみません、
すぐ取ってくるのでお待ちくださいね。
本当に間抜けですみません」
苦笑しながら和やかな雰囲気で
話しを持っていったのだが、
玄関に踏み入れた足を外に向けた時、
手遅れだったと気付く。
先ほどまで私の対応をしていた女の
長い髪の毛と生首が、
私の足元に巻き付いていた。
それを思い出した時に、
夢の遊女とその女が同一だと感じた。
(とにかく逃げなくては!)
玄関から出ると、
生首も髪の毛も消えていた。
マンションの一室という場所だった。
二階の。
マンションから下りる階段が消えていた。
なんとか逃げなくてはと、
廊下から見える外に目を凝らしたら、
こちらに背を向けて
何か作業をしている男がいた。
恰幅のいい男だった。
※恰幅(かっぷく)
体つきや様子。
黙々と何かをしているが、
何をしているのか分からない。
その男に声をかけて、
場の流れを変えようと思ったが・・・
いざ口を開けて声を出そうとすると、
「気付かれるな!!!」
という意識が起きた。