ふくろさん 3/5
主「ええよええよ、わかっとる。
前にも、君らの様な若者らあが、
興味本位でやって来たことがあったきよ。
まあ君らは礼儀正しい方やけんどな。
ちゃんと、事前に連絡もくれたしな」
どうやら僕らの目的は
最初から筒抜けだったようだ。
K「中身、見せてくれませんか?」
主「すまんけんど。それは出来んわ」
穏やかな口調の中に、
断固とした意思が感じられた。
これはいくら頼んでも無駄だろう。
主「あの中身については、
教えるわけにはいかんのよ。
・・・ああ、それとも、
君らのうち、誰か一人が
ここの跡継ぎになてくれたら、
そうなりゃあ教えちゃれるわ。
おう、そらええ考えやと
思わんか?」
本気で言われているのか、
からかわれているのか、
どっちとも取れず、
「はっはっは」と笑う
神主さんを前に、
僕らはただ曖昧な笑みを
浮かべるだけだった。
結局、『ふくろさん』に関して
神主さんからは何も情報を引き出せず。
僕らは一旦彼にお礼を言って、
神社から出ることにした。
車に戻り、
どこか憤慨したようにKが言う。
K「くっそ、あのオッサンめ。
代々神主しか知らない中身って、
余計気になるじゃねーか」
S「もしかしたら、
俺らのこと監視してたのかもな。
神体に妙なことしないかどうか」
Sが運転席に腰掛け、
リクライニングを少しばかり
後ろに倒しながらそう言った。
僕「そうなん?」
と僕。
S「・・・さっき、あのオッサン言ってたろ。
前にも同じようなことがあったって。
でも俺らとは違い、
電話でアポは取ってなかった。
・・・それでもそいつらが、
『若者たち』だって知ってるってことは、
何かやらかしたんだろうな、
そいつら」
僕「その場に居たんじゃない?
神主さん」
S「あのオッサン、あんま頻繁に
ここに詰めてる風でも無かったろ。
まあ、居たかもしんね―けど」
僕「やらかしたって、
何をやらかしたん?」
S「知らねえよ。俺に訊くな」
その時、Kがぽつりと呟いた。
K「・・・呪いだ」
僕とSは後部座席を振り向く。
K「それってよ。
そいつら、袋に何かしたせいで
呪われちまったんじゃねーの?
で、どうしようも無くなって、
あのおっさんに泣きついた」
S「ねーよ」
即座にSが否定する。
K「そーか?俺的には
イイ線いってると思うんだけどな・・・」
Sに否定されたせいで、
Kの名推理はしおしおと
しぼんでしまった。
僕「・・・で、どうするのさ?」
僕がKに尋ねると、
Kはうーんと軽く唸った後、
運転席を後ろから蹴りあげて、
K「おーいS、車出せよ」
そしてシートにもたれかかって
目を閉じる。
K「俺たちは、やれるだけやった」
とそう言った。
事前に見に行くと連絡を入れ、
袋の中身は何なのか聞き、
見せてくれないかとも頼んだ。
それでも駄目だと言われれば、
それはもう仕方が無い。
結局は無断で見せてもらうしか
ないわけだ。
その日の夜のこと。
神社から少し離れた場所に
車を停めて、
僕とKは懐中電灯を片手に、
またあの石造りの鳥居をくぐっていた。
Sは来なかった。
「俺は眠い」とだけ言って、
今は車の中でお眠りしているはずだ。
夜の境内は、
朝とはまるで違う雰囲気だった。
前に来た時には爽やかさを含んでいた
木々のざわめきが、
今や得体の知れない何者かの
息使いに聞こえる。
「そこだ」とKが言う。
水盤舎の隣の小さな社。
見ると、朝は開いていたはずの
扉が閉まっている。
近づいてよく見ると、
鍵もかかっているようだ。
どうするのかと思っていたら、
Kが社に近づき、
僕に「ライトで扉を照らしてくれ」
と言った。
ポケットから何かを取り出す。
どうやらそれは、
工具用の細いドライバーと
針金の様だった。
(※以下は空き巣の手口と同様なので、
ここに書き示すことは出来ません)
そのうち、ガタリと音を立てて
扉が外れる。
その扉をゆっくりと地面に置いて、
Kは「ふう」と一息ついた。
社の中に手を入れ、
『ふくろさん』を取り出す。
そして地面に置いた扉の上に
そっと乗せた。
僕「うひゃあ、犯罪だねえ・・・」
と僕が呟く。
K「しかも完全犯罪だぜ。
明日来たって誰も気づかねーからな」
もちろん、袋の中身を見た後は、
全て元通りにして退散するつもりだった。
立つ鳥跡を濁さず。
それがオカルトに準ずる者の
マナーだと、
Kは常々言っている。
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