公衆電話の夜 1/3

ことの始まりは、ある夏の夜。

 

深夜十一時を過ぎた頃に突然来た、

友人Kからの一通のメールだった。

 

K『これから電話来ると思うけど。

それ、俺だから』

 

僕はその時、

自宅のベッドの上で、

 

大学の図書館から借りてきた

本を読んでいた。

 

Kがこんな時間に

電話してくること自体は、

 

まあそれほど珍しいことでは

ないのだけど、

 

いちいちメールで事前告知を

してくるのが気になった。

 

一体、何の話だろう?

 

そんなことをぼんやり考えていたら、

ぶうーん、と

 

蜂の飛行音の様な音を立てて

携帯が振動した。

 

Kからだな。

 

しかし携帯の画面には、

 

Kの名前の代わりに『公衆電話』

と書かれていた。

 

はて?、と思った。

 

これがKからの電話だとして、

 

どうしてKはわざわざ公衆電話から

僕に電話を掛けてきているのだろうか。

 

先程メールが来たのだから、

携帯は持っているはずなのに。

 

しかしまあ、

考えても分からないので、

 

僕は読みかけの本を置いて

電話に出た。

 

「・・・もしもし?」

 

K『おせえ。早く出ろよおめーよ』

 

確かにそれはKの声だった。

 

「こんな夜中にどうしたのさ。それに、

そこって電話ボックスの中?」

 

K『ゴメーイトゥ』

 

「何でそんなとこから

掛けてきてんのさ?」

 

と訊いてみるは良いが、

 

実は僕にはその答えが

半ば予想出来ていた。

 

Kがこういうことをする時は、

必ずオカルト絡みのアレコレなのだ。

 

K『実はよー、この電話ボックスがよ。

有名な心霊スポットだって噂を聞いてだな。

 

昔ここで事故があったようでよ。

 

なんか、こうやって電話掛けてると、

いつの間にか男が、外からこっちをジーっと、

見つめてるんだとよ』

 

「あーはいはい。

そんなことだろうと思ったよ」

 

・・・そして、

その男の霊はまだ生きていた頃、

 

仕事帰りにいつも

そこの公衆電話を使用していた。

 

携帯のまだ普及してなかった時代。

 

家族に『もうすぐ帰るよ』 と

連絡していたのだ。

 

が、しかし。

 

ある日、仕事が終わって

電話を掛ける前に、

 

よそ見運転の車に轢かれて

死んでしまった・・・。

 

Kの話を聞いた瞬間。

 

そんな悲しいストーリーが、

僕の頭の中では展開されていた。

 

先程まで読んでいた小説の

影響だろうか。

 

けれども、僕は不思議に思う。

 

オカルト好きにして怖がりなKが、

よくそんなスポットに一人で行けたものだ。

 

「で、そこに男の人は居るの?」

 

K『あ、違う違う。

男の霊が出るのはこっちじゃなくて、

電話掛けられた方だとよ』

 

「・・・は?」

 

K『窓の方に出るらしいからよ。

出たら、実況してくれ』

 

僕は窓の方を見た。

反射的な行動だった。

 

カーテンがふわりと揺れていた。

 

窓は閉めていたから、

 

今日の暑さに我慢出来ずにつけた

エアコンのせいだろう。

 

ここはアパートの二階、

窓に映るのは闇夜の景色だけのはず。

 

しかし。

 

僕の喉から、ひゅっ、と息が漏れた。

 

そいつは身体全体を

ガラスに押し付ける様に、

 

ぴったりと窓に張り付いていた。

 

腕も足も九十度近く曲げ、

その目は何処を向いているのか分からない。

 

服は着ておらず全裸。

その身体はぞっとするほど白かった。

 

ヤモリだった。

 

「・・・居た」

 

K『マジでっ!?』

 

「ヤモリが」

 

K『あ?・・・男の霊は?』

 

「居ない。というか待て。待て。

ちょっと遅いけど言わせておくれよ」

 

K『おう』

 

「ナンダソレ」

 

K『何が?あ、ヤモリ?』

 

「・・・違う。僕を餌に使うなよ、ってこと。

そういうのは自分で体験して何ぼでしょうが」

 

しかしだ。

なるほど合点がいった。

 

だからKは今回一人でも

大丈夫だったのだ。

 

何せ怖い思いをするのは

僕一人だから。

 

K『まあ、いいじゃん。

お前だって見たいだろ?ユーレイ。

 

ってか、もう一度窓見てみ?

今度は居るかもよ』

 

「さっきから窓見てるけど、

誰も居ないよ」

 

代わりに、僕の視線に気づいてか、

ヤモリが素早い動きで視界から消え去った。

 

K『何だよ面白くねーなー。

この電話から掛けると、必ず相手の絶叫が

聞こえるって話だったのによー』

 

僕の絶叫が聞きたかったのかコイツ。

 

「・・・そんなに絶叫が聞きたいなら、

Sにも電話掛けてあげれば?

数打てば当たるかも知れないよ」

 

K『そうだな。あ、でもよ、

あいつ寝てる途中で起こされると、

メッチャ不機嫌じゃん。

 

ユーレイよりこええし』

 

「はは。まあ、確かにね。

でもユーレイより怖いってのは、」

 

ガチャン。

 

「ちょっと・・・あれ?Kー?

もしもしー?」

 

・・・ツー、ツー、ツー・・・、

 

どうやら電話が切れてしまったようだ。

 

(続く)公衆電話の夜 2/3へ

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