公衆電話の夜 3/3

そいつの口が動いた。

ゆっくりと上下に開く。

 

『ただいま』

 

声はそいつの口から

聞こえてきたのではなかった。

 

僕の耳に当てた携帯から。

もちろんKの声じゃない。

 

『ただいま』

 

ガラスに映るそいつの

口の動きに合わせて、

 

携帯電話の奥から声がする。

 

『今、帰ったよ』

 

ふつふつと脂汗が額に

浮き出ているのが分かった。

 

もし今振り返ったら

どうなるのだろう。

 

部屋の中には何も居ないのか。

それとも・・・。

 

悲鳴が、叫び声が、

喉の奥までせり上がって来ている。

 

『ただいま。・・・今、帰ったよ』

 

僕が悲鳴を上げようとした、

その時だった。

 

『うるせえな、今何時だと思ってんだ

このボケが!!』

 

聞き覚えのある怒声が、

 

僕の携帯を当てていた左の耳から

右の耳へと貫通した。

 

「うわあっ!」

 

僕は飛び上がって悲鳴を上げた。

 

けれどそれは、

恐怖の悲鳴では無かった。

 

それからKの『うはははは』

という笑い声が、

 

電話の向こうから聞こえてくる。

 

気づけば、僕は窓の傍に

尻もちをついてひっくり返っていた。

 

電話から聞こえてきた怒声は

Sの声だった。

 

「うあ、うあ、うわわわ・・・」

 

恐怖と驚きと混乱で、

声にならない声が僕の口から洩れる。

 

尻もちはついたけれど、

 

携帯はしっかり手に持って

放り投げてはいなかった。

 

S『・・・あん?お前、○○(僕の名前)か?

Kと一緒に居るのか?』

 

何が何だか分からない。

 

どうしてSの声が電話口から

聞こえてくるのか。

 

どうして僕が怒鳴られなきゃ

いけないのか。

 

そして、ひっくり返った拍子に

後ろを見てしまったわけだが、

 

僕の部屋の中には今、

僕以外に誰も居ない。

 

窓に映っていた顔半分の無い男も

居なかった。

 

S『おい、Kに代わってくれ。

説教するから』

 

Kは未だ電話の向こうで

『あひゃひゃひゃ』と、

 

心底可笑しそうに笑っている。

 

僕は何度も何度も細かい息を吐いて、

ようやく理解した。

 

つまり今、

Kは公衆電話の中で、

 

自分の携帯と公衆電話の受話器を

合わせているのだ。

 

Kを介して僕とSは

互いの声が聞こえている。

 

K『うっはっは。あーおもしれー。

ってか、こんな風に繋げても

会話って出来んだなー』

 

S『黙れボケが。

何が可笑しいのか知らんが、

明日会ったらお前、』

 

K『あーワリーS、

十円しか入れてないからよ。

もう切れるわ、あっはっは!』

 

S『テメー俺の安眠を、』

 

ガッチャン。

 

どうやらKが受話器を戻したらしい。

 

K『あー面白かった。

ってかおめーも驚き過ぎだろ。

マジで悲鳴あげてたし』

 

「・・・うん」

 

僕は恐る恐る、

窓ガラスを見てみる。

 

見馴れた僕の部屋。

 

僕一人。

他は誰も居ない。

 

深い安堵の溜息を吐く。

 

怖かったしグロかった。

ああいうのは駄目だ。

 

幽霊というのは、

 

もっとこうスマートで無くては

ならないと切に思う。

 

K『んー? どうしたお前、

何かあったのか?』

 

そう言えば、

 

Kがさっきの公衆電話から

Sに電話を掛けたのだとすれば、

 

さっきの頭なし男は

Sの部屋にも行ったのだろうか。

 

「・・・いや、ないない」

 

僕は何故か確信出来た。

それは無い。

 

僕はSに怒鳴られた言葉を

思い出していた。

 

やっと帰り着いて、

 

あんな言葉を言われたら

誰だって消えたくなる。

 

K『あ、そ?何もなかった?』

 

「うん。何も無かったよ。

 

・・・それよりKさ、

今からウチに来ない?

 

目が冴えちゃってさ。

何かして遊ぼうよ」

 

K『あー行く行く!んじゃ、

二十分くらいでそっち着くわ』

 

「うん。じゃあまたあとでね」

 

Kとの電話を切った後、

僕はすぐSに電話を掛けた。

 

Sは、もろ不機嫌だった。

 

S『・・・ああ?』

 

「あ、S?ねえ、さっきのKの電話で

目冴えちゃったんじゃない?」

 

S『・・・ああ』

 

「じゃあさ。今からさ、ウチ来ない?」

 

S『ああ?何で』

 

「Kも来るよ」

 

S『行く。待ってろ』

 

これでよし。

 

僕は電話を切ると、

ベットの上に倒れこんだ。

 

まずKが先に来るだろう。

後でSがやって来るとも知らずに。

 

僕はそっとほくそ笑む。

 

でも、それは二人を呼んだ理由の

一つに過ぎない。

 

僕は携帯を開けて、

着信が来ない様に電源を切った。

 

それから、はっと気づいて

カーテンを全部閉める。

 

その瞬間、

ヤモリが一匹窓を横切った。

 

「うひっ!」

 

悲鳴を上げて飛び退く。

・・・ああ怖い怖い。

 

読みかけていた本も

ホラーものだったけれど、

 

今日はもう読めない。

 

これが理由の二つ目。

 

僕一人じゃ、今夜はどうにも

眠れそうになかったから。

 

(終)

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