リゾートバイト(本編)12/14

でも、なんか違和感なんだ。

 

よく耳を凝らすと、

なにか他の音が聞こえるんだ。

 

さらに耳を凝らすと、段々その音が

クリアに聞こえるようになった。

 

俺は考えるより先に確信した。

あの呼吸音だって。

 

Bを見た。

 

薄暗くてわかりづらかったが、

Bに気づいている気配はなかった。

 

Bには聞こえないのか?

 

そういえば、Bって呼吸音について

言ってたっけ?

 

もしかして、あれは聞いたことがないのか?

それとも単に気づいていないだけか?

 

頭の中で色々な考えが浮かんだ。

 

すると、硬直する俺の様子に気づいたBが、

周りをキョロキョロと見回し始めた。

 

この状況の中で、

神経が過敏にならないはずがなかった。

俺の異変にすぐ気づいたんだ。

 

すると、Bの視線が一点に止まった。

俺の肩越しをまっすぐ見つめていた。

 

白目が一気にデカくなり、

大きく見開いているのがわかった。

 

AもBの様子に気が付き、

Bの見ている方を見ていたが、

何も見つけられないようだった。

 

俺は怖くて振り返れなかった。

 

それでも、あの呼吸音だけは

耳に入ってくる。

 

ソレが、すぐそこにいることがわかった。

 

動かず、ただそこで「ひゅーっひゅーっ」

と言っていた。

 

しばらく硬直状態が続くと、

今度は俺達のいるおんどうの周りを

ズリズリと、なにか引きずるような

音が聞こえ始めたんだ。

 

Aはこの音が聞こえたらしく、

急に俺の腕を掴んできた。

 

その音は、おんどうの周りをぐるぐると回り、

次第に呼吸音が「きゅっ・・・・きゅえっ・・」

っていう、何か得体の知れない音を

挟むようになった。

 

俺には音だけしか聞こえないが、

ソレがゆっくりとおんどうの周りを

徘徊していることは、わかった。

 

Aの腕から、心臓の音が

伝わってくるのを感じた。

 

Bを確認する余裕がなかったが、

固まってたんだと思う。

 

全員、微動だにしなかった。

 

俺は恐怖から逃れるために、

耳を塞いで目を瞑っていた。

 

頼むから消えてくれと、

心の中でずっと願っていた。

 

どれくらい時間が経ったか、わからない。

 

ほんの数分だったかも知れないし、

そうでないかも知れない。

 

目を開けて周りを見回すと、

おんどうの中は真っ暗で、

ほぼ何も見えない状態だった。

 

そして、さっきまでのあの音は消えていた。

 

恐怖の波が去ったのか、

それともまだ周りにいるのか、

判断がつかず動けなかった。

 

そして目の前に広がる深い闇が、

また別の恐怖を連れて来たんだ。

 

目を凝らすが何も見えない。

 

『いるか?』『大丈夫か?』の

掛け声さえ出せない。

 

ただ、Aはずっと俺の腕を握ってたので、

そこにいるのがわかった。

 

俺は、このとき

猛烈にBが心配になった。

 

Bは明らかに何かを見ていた。

暗がりの中でBを必死に探すが見えない。

 

俺は、Aに掴まれた腕を

自分の左手に持ち直し、

 

Aを連れてBのいた方へ、

ソロソロと歩き出した。

 

なるべく音を立てないように、

そしてAを驚かせないように。

 

暗すぎて、

意思の疎通が出来ないんだ。

 

誰かがパニックになったら

終わりだと思った。

 

どこにいるか全くわからないので、

左手にAの腕を持ったまま、

右手を手前に伸ばして

左右にゆっくり振りながら進んだ。

 

すると指先が急に固いものに当たり、

心臓がボンっと音を立てた。

 

手に触れたそれは、手触りから

壁だということがわかった。

 

おかしい、

Bのいた方角に歩いてきたのに、

Bがいない。

 

俺は焦った。

 

さらに壁を折り返して、

ゆっくりと進んだ。

 

だが、また壁に行き着いた。

途方に暮れて泣きそうになった。

 

『Bどこだ』の一言を、

何度も飲み込んだ。

どうしていいかわからなくなり、

その場に立ち尽くしたまま

Aの腕を強く握った。

 

すると、今度はAが俺の腕を掴み、

ソロソロと歩き出したんだ。

 

まず、Aは壁際まで行くと、

掴んだ俺の腕を壁に触らせた。

 

そしてそのままゆっくりと

壁沿いを移動し、

角に着いたら進路を変えて、

また壁沿いに歩く。

 

そうやっていくうちに、前を歩くAが

ぱたりと止まった。

 

そして俺の腕をぐいっと引っ張ると、

何か暖かいものに触れさせた。

 

それは、小刻みに震える人の感触だった。

Bを見つけたと思った。

 

でもすぐ後に、これは本当にBなのか?

という疑問が芽生えた。

 

よく考えたらAもそうだ。

 

ずっと近くにいたが、実際、

俺の腕を掴んでいるのはAなのか?

 

俺は暗闇のせいで、

完全に疑心暗鬼に陥っていた。

 

俺が無言でいると、Aはまた俺の腕を掴み、

ソロソロと歩き出した。

 

俺は、ゆっくりと付いて行った。

 

(続く)リゾートバイト(本編)13/14へ

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