病院 1/3

ナースステーション

 

大学2回生時9単位。

3回生時0単位。

 

すべて優良可の良。

 

俺の成績だ。

 

その頃、子猫をアパートで

飼っていたのであるが、

 

いわゆる部屋飼いで、

 

一切外には出さずに育てていて、

こんなことを語りかけていた。

 

「おまえはデカなるで。

この部屋の半分くらい。

 

食わんでや俺」

 

しかし、そんな教育の甲斐なく、

子猫はぴったり猫サイズで成長を止めた。

 

その頃、

まったく正しく猫は猫になり。

 

犬は犬になり。

 

春は夏になった。

 

しかしながら、

俺の大学生活は迷走を続けて、

 

一体何になるのやら、

向かう先が見えないのだった。

 

その夏である。

 

大学2回生だった。

 

俺の迷走の原因となっている先輩の紹介で、

俺は病院でバイトをしていた。

 

その先輩とは、

 

俺をオカルト道へ引きずり込んだ

元凶のお方だ。

 

いや、

そのお方は端緒にすぎず、

 

結局は自分の本能のままに、

俺は俺になったのかもしれない。

 

※端緒(たんしょ)

物事を始めるきっかけ。

 

「師匠、

なんかいいバイトないですかね」

 

その一言が、

 

その夏もオカルト一色に染め上げる

元になったのは確かだ。

 

病院のバイトとは言っても、

 

正確に言うと『訪問看護ステーション』

という医療機関の事務だ。

 

訪問看護ステーションとは、

 

在宅療養する人間の看護や

リハビリのために、

 

看護師(ナース)や理学療法士(PT)

作業療法士(OT)が出向いて、

 

その行為をする小さな機関だ。

 

ナース3人に、

PT・OTが1人ずつ。

 

そして、事務1人の計6人。

 

この6人がいる職場が、

病院の中にあった。

 

もちろん経営母体は同一だったから、

ナースやPTなどもその病院の出身で、

 

独立した医療機関とはいえ、

ただの病院の一部署みたいな感覚だった。

 

その事務担当の職員が

病欠で休んでしまって、

 

復帰するまでの間に

レセプト請求の処理をするには、

 

どうしても人手が足りないということで、

俺にお声がかかったのだった。

 

ナースの一人が所長を兼ねていて、

彼女が師匠とは知り合いらしい。

 

60近かったがキビキビした人で、

 

元々この病院の婦長(今は師長というらしい)

をしていたという。

 

その所長が言う。

 

「夜は早く帰りなさいね」

 

あたりまえだ。

 

大体、シフトからして

17時30分までのバイトなんだから。

 

なんでも、

ステーションのある4階は、

 

もともと入院のための病床が

並んでいたが、

 

経営縮小期の折に廃床され、

 

その後、他の使い道もないまま

放置されてきたのだという。

 

今はナースステーションがあったという

一室を改良して、

 

事務所として使っていた。

 

そのためその階では、

 

ステーションの事務所以外は

一切使われておらず、

 

一歩外に出ると昼間でも暗い廊下が、

人気もなくずーっと続いているという、

 

なんとも薄気味悪い雰囲気を

醸し出しているのだった。

 

それだけではない。

 

ナースたちが囁くことには、

この病棟は末期の患者のベッドが多く、

 

昔からおかしなことが

よく起こったというのだ。

 

だからナースたちも、

夜は残りたくないという。

 

勤務経験のある人のその怖がり様は、

ある種の説得力を持っていた。

 

絶対早く帰るぞ。

 

そう心に決めた。

 

が、これが甘かった。

 

元凶は、毎月の頭にある

レセプト請求である。

 

一応の引継ぎ書はあるにはあるが、

 

医療事務の資格もなにもない

素人には難しすぎた。

 

特に訪問看護を受けるような人は、

 

ややこしい制度の対象に

なっている場合が多く、

 

一体、何割をどこに請求して、

残りをどこに請求すればいいのやら、

 

さっぱりわからなかった。

 

頭を抱えながら

なんとか頑張ってはいたが、

 

3日目あたりから残業しないと

無理だということに気づき、

 

締め切りである10日までには

仕上がるようにと、

 

毎日の帰宅時間が延びていった。

 

「大変ねえ」

 

と言いながら仕事を終えて帰る

ナースたちに愛想笑いで応えたあと、

 

誰もいない事務所には、

俺だけが残される。

 

とっくに日は暮れて、

窓からは涼しげな夜風が入り込んでくる。

 

静かな部屋で、

電卓を叩く音だけが響く。

 

ああ。いやだ。いやだ。

 

昔はこの部屋で夜中、

ナースコールがよく鳴ったそうだ。

 

すぐにかけつけると、

 

先日亡くなったばかりの

患者の部屋だったりしたとか・・・

 

そんな話を昼間に聞かされた。

 

一時期完全に無人になっていたはずの4階で、

真夜中に呼び出し音が鳴ったこともあるとか。

 

ナースコールの機器なんて、

とっくに外されていたにもかかわらず。

 

確かに病院は怪談話の宝庫だ。

 

でも、現場で聞くのはいやだ。

 

俺はやっつけ仕事でなんとか

その日のノルマを終えて、

 

事務所を出ようとする。

 

恐る恐るドアを開くと、

 

しーんと静まり返った廊下が

どこまでも伸びている。

 

(続く)病院 2/3

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