田舎(前編) 2/3

田舎

 

しかし、

 

師匠と京介さんという

コンビの面白さは実感していたので、

 

これはなんとしても

二人セットで来させたい。

 

ところがこの二人、

水と油のように仲が悪い。

 

一計を案じた。

 

オフ会がハネたあと、

 

散会していく人の中からCoCoさんという、

その集まりの中心人物をつかまえた。

 

彼女も俺と同じ大学だったが、

試験などよりこちらの方が大事なのだろう。

 

そして彼女は師匠の恋人であり、

京介さんとも親しい仲であるという、

 

まさに味方に引き入れなければ

ならない人だった。

 

CoCoさんはあっさりと、

俺の計画に乗ってくれた。

 

むしろノリノリで、

 

ああしてこうしてという指示まで

俺に飛ばし始めた。

 

簡単に言うと、

 

師匠には『師匠、俺、CoCoさん』

の3人旅行だと思わせ、

 

京介さんには『京介さん、俺、CoCoさん』

の3人旅だと思わせるのだ。

 

いずれ当然バレるが、

 

現地に着いてしまえば、

なし崩し的にどうとでもなる。

 

つまり、

いつもの俺の手口なのだった。

 

翌日、

 

CoCoさんから『キョースケOK』

とのメールが来た。

 

同じ日に、

 

「なんか、一緒に来たいって

行ってるけどいいか?」

 

と、CoCoさんの同行を少し申し訳なさそうに

師匠が尋ねてきた。

 

もちろん気持ちよく了承する。

 

これで里帰りの準備が整った。

 

そして、試験の出来は、

やはり酷いものだった。

 

俺と師匠は南風という特急電車で

南へ向かっていた。

 

甘栗を食べながら、

俺は師匠に、

 

『何故、俺の田舎に興味があるのか』

 

という最大の疑問をぶつけていた。

 

京介さんとCoCoさんは、

一つ後の南風で来るはずだ。

 

師匠には、

 

CoCoさんは用事があり、

少し遅れて来ることになっており、

 

京介さんに対しては、

 

俺は一日早く帰省して

待っていることになっていた。

 

「う~ん」

 

と言ったあと、

 

もう種明かしをするのはもったいないな

という風を装いながらも、

 

師匠は俺の田舎に伝わる、

民間信仰の名前を挙げた。

 

なんだ。

 

そんな拍子抜けするような感じがした。

 

田舎で生活する中で、

わりと耳にする機会のある名前だった。

 

別段、

特別なものという印象はない。

 

具体的にどんなものかと言われると

少し出てこないが、

 

まあ困ったことがあったら、

太夫さんを呼んで拝んでもらう、

 

というようなイメージだ。

 

太夫(たゆう)

人物(身分)の呼称。

 

それは田舎での生活の中に

自然に存在していたもので、

 

別段怪しげなものでもない。

 

もっとも、一度か二度、

 

小さい時になにかの儀式を

見た記憶があるだけで、

 

どういうものかは実際はよくわからない。

 

どうして師匠がそんなマイナーな

地元の信仰を知っているのだろう、

 

と、ふと思った。

 

京介さんもやっぱり、

それに対して反応したのだろうか。

 

「それ、なんですか」

 

窓の外に広がる海を、

頬杖をついて見ていた師匠の首筋に、

 

紐のようなものが見えた。

 

「アクセ」

 

こっちを見もせずにそう言ったものの、

 

師匠がアクセサリーの類をつけるところを

見たことがない俺は首を捻った。

 

俺の視線を感じたのか、

 

胸元に手を当てて、

師匠は微かに笑った。

 

その瞬間、

 

なんとも言えない嫌な予感に

襲われたのだった。

 

ガタンガタンと電車が線路の連結部で

跳ねる音が大きくなった気がして、

 

俺は理由もなく車内を見回した。

 

いくつかの駅で停まったあと、

電車はとりあえずの目的地に着いた。

 

「ひどい駅」

 

と開口一番、

師匠は我が故郷の駅をバカにした。

 

駅周辺にある椰子の木を指差して、

ゲラゲラ笑う師匠を連れて街を歩く。

 

『遅れて』来るCoCoさんを待つ間、

昼飯を腹に入れるためだ。

 

途中、ボーリング場の前にある

電信柱に立ち寄った。

 

地元ではツウのあいだで有名な、

心霊スポットだ。

 

夜中、その前を歩くと、

 

電信柱に寄り添うように立つ

影を見るという。

 

見た後どんな目に遭うかという部分は、

様々なヴァリエーションが存在する。

 

話を聞いた師匠は「ふーん」と

鼻で返事をして、

 

周囲を観察していたかと思うと、

やがて興味を無くして首を振った。

 

先に進みながら師匠を振り返り、

 

「どうでした」

 

と聞くと、

 

Tシャツの襟元をパタパタさせながら、

 

「なにかいるっぽい」

 

と言った。

 

「なにかいるっぽいけど、

よくわかんない。

 

よくわかんないってことは、

大したことない。

 

大したことないってことは、

余計に歩いて暑いってことだよ」

 

不満げにそう言うのだった。

 

確かに暑い日だった。

 

本格的な秋が来る前の最後の地熱が、

そこかしこから吹き上がって来ているようだった。

 

(続く)田舎(前編) 3/3

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