血(前編) 1/2

まばたき

 

大学1回生の時、

 

オカルト道を突き進んでいた俺には

師匠がいた。

 

ただの怖い物好きとは一線を画す、

得体の知れない雰囲気を持った男だった。

 

その師匠とは別に、

自分を別の世界に触れさせてくれる人がいた。

 

オカルト系のネット仲間で、

オフでも会う仲の『京介』さんという女性だ。

 

どちらも俺とは住む世界が違うように思える、

凄い人だった。

 

師匠の彼女も同じネット仲間だったので、

その彼女を通じて面識があるのかと思っていたが、

 

京介さんは師匠を知らないという。

 

俺はその二人を会わせたら、

 

どういう化学反応を起こすのか

見てみたかった。

 

そこである時、

師匠に京介さんのことを話してみた。

 

「会ってみませんか」

 

と。

 

師匠は腕組みをしたまま

唸ったあとで、

 

「最近付き合いが悪いと思ってたら、

浮気してたのか」

 

そんな嫉妬されても困る。

 

が、

 

「黒魔術に首をつっこむと、

ろくなことがないよ」

 

と諭された。

 

ネットでは黒魔術系のフォーラムに

いたのだった。

 

「どんなことをしてるのか」

 

と問われて、

 

「あんまり黒魔術っぽいことは

してませんが」

 

と答えていると、

あるエピソードに食いついてきた。

 

京介さんの母校である地元の女子高に

潜入した時の出来事だったが、

 

その女子高の名前に反応したのだった。

 

「待った、

その女の名前は?

 

京子とか、ちひろとかいう

名前じゃない?」

 

そういえば、京介という

ハンドルネームしか知らない。

 

話を聞くと、

師匠が大学に入ったばかりの頃、

 

同じ市内にある女子高校で、

 

新聞沙汰になる猟奇的な事件が

あったそうだ。

 

女子生徒が重度の貧血で

救急車で搬送されたのであるが、

 

「同級生に血を吸われた」

 

と証言して、

 

地元の新聞がそれに食いつき、

ちょっとした騒ぎになった。

 

その後、

警察は自殺未遂と発表し、

 

事件自体は尻切れのような形で

沈静化した。

 

しかしそのあと、

 

二人の女子生徒が密かに

停学処分になっているという。

 

「当時、僕ら地元のオカルトマニアには、

この事件はホットだった。

 

○○高のヴァンパイアってね。

 

たしか、校内で流行ってた

占いの秘密サークルが絡んでて、

 

停学になったのは、

そのリーダー格の二人。

 

どっかで得た情報では

そんな名前だった」

 

吸血鬼って、いまどき。

 

俺は師匠には申し訳ないが、

腹を抱えた。

 

「笑いごとじゃない。

その女には近づかない方がいい」

 

思いもかけない真剣な顔で迫られた。

 

「でも京介さんがその停学に

なった人とは限らないし」

 

俺はあくまで一歩引いて

流そうとしていた。

 

しかし、『京子』という名前が、

妙に頭の隅に残ったのだった。

 

地元の大学ということもあってか、

 

その女子高出身の人が、

俺の周辺には結構いた。

 

同じ学科の先輩で、

その女子高OGの人がいたので、

 

わざわざ話を聞きに行った。

 

やはり、

自分でもかなり気になっていたらしい。

 

「京子さん?

 

もちろん知ってる。

私の1コ上。

 

そうそう、

停学になってた。

 

なんとか京子と、

山中ちひろ。

 

占いとか言って、

血を吸ってたらしい。

 

うわー、きしょい。

二人とも頭おかしいんだって。

 

特に京子さんの方は、

 

名前を口に出しただけで

呪われるとかって、

 

下級生にも噂があったくらい。

 

えーと、そうそう、

間崎京子。

 

ギャ、言っちゃった」

 

その先輩に、

 

『京子』さんと同学年という人を

二人紹介してもらった。

 

二人とも他学部だったが、

 

学内の喫茶店とサークルの部室に

乗り込んで話を聞いた。

 

「京子さん?

あの人はヤバイよ。

 

悪魔を呼び出すとか言って、

変な儀式とかしてたらしい。

 

高校生がそこまでするかってくらい、

イッちゃってた。

 

最初は占いとか好きな取り巻きが

結構いたけど、

 

最後はその京子さんとちひろさんしか

いなくなってた。

 

卒業して外に出たって話は聞かないから、

案外まだ市内にいるんじゃない?

 

なにしてるんだか知らないけど」

 

「その名前は出さない方がいいですよ。

いや、ホント。

 

ふざけて陰口叩いてて、

事故にあった子も結構いたし。

 

ホントですよ。

 

え?そうそう。

 

ショートで背が高かったなあ。

 

顔はね、

きれいだったけど・・・

 

近寄りがたくて、

彼氏なんかいなさそうだった」

 

話を聞いた帰り道、

ガムを踏んだ。

 

嫌な予感がする。

 

高校時代から怪我人が出るような

『遊び』をしていたという、

 

『京介』さんの話と合致する。

 

山中ちひろというのは、

京介さんが親しかったという、

 

黒魔術系サークルのリーダー格の

女性ではないだろうか。

 

間崎京子。

 

頭の中でその言葉が回った。

 

(続く)血(前編) 2/2

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