ともだち 1/2

影

 

大学2回の冬。

 

昼下がりに自転車を漕いで

幼稚園の前を通りがかった時、

 

見覚えのある後ろ姿が目に入った。

 

白のペンキで塗られた

背の低い壁のそばに立って、

 

向こう側をじっと見ている。

 

住んでいるアパートの近くだったので

まさかとは思ったが、

 

やはり俺のオカルト道の師匠だった。

 

子どもたちが園庭で遊んでいる様子を、

一心に見つめている20代半ばの男の姿を、

 

一体どう表現すればいいのか。

 

こちらに気づいてないようなので、

 

曲がり角のあたりで自転車を止めたまま

様子を伺っていると、

 

やがて先生に見つかったようで、

 

「違うんです」

 

と聞こえもしない距離で

言い訳をしながらこっちに逃げてきた。

 

目が合った瞬間、

実に見事なバツの悪い顔をして、

 

「違うんだ」

 

と言い、

そしてもう一度、

 

「違うんだ」

 

と言いながら、

曲がり角の塀の向こうに身を隠した。

 

俺もつられてそちらに引っ込む。

 

「あの子を見てただけなんだ」

 

遠くの園庭を指差しているが、

ここからではうまく見えない。

 

「あの青いタイヤの所で、

地面に絵を描いてる女の子」

 

首を伸ばしても、

 

角度的に木やら壁やらが邪魔で

さっぱりわからない。

 

なにより、

なにも違わない。

 

「いつから見てたんですか」

 

との問いに、

 

「ん、1ヶ月くらい前から」

 

とあっさり答え、

ますます俺の腰を引かせてくれた。

 

「そんなに可愛いんですか」

 

言葉を選んで聞いたつもりだったが、

 

「可愛いかと問われればイエスだが、

 

『そんなに』って頭につけられると

すごく引っ掛かる」

 

と不快そうな顔をする。

 

「1ヶ月前、

 

最初に足を止めたのは

あの子じゃなく、

 

あの子の傍にいた

奇妙な物体のためだよ」

 

物体という表現がなんだか気持ち悪い。

 

「それは見るからに

この世のものではないんだけど、

 

あの子はそれを認識していながら

怯えている様子はなかった。

 

他の子や先生には、

見えてすらいないようだった」

 

その子はいつもひとりで遊んでいたという。

 

砂場遊びの仲間に誘われることもなく、

 

かといって他の園児から

からかわれることもなく、

 

ただひたすらひとりで絵を描いている。

 

親が迎えに来る時刻になるまで、

ずっとそうしているのだという。

 

「他の子が帰っても、

なかなかあの子の親は来ないんだ。

 

日が暮れそうになってから、

ようやく若い母親がやって来るんだけど、

 

なんていうか、

まともな親じゃないね。

 

あの子の顔を見ないし、

手の引き方なんて、

 

地面に生えた雑草を

引っこ抜くみたいな感じ。

 

虐待?

 

まあ、服から見えてる部分には

痕がないけど、どうだろうね」

 

気分の悪くなる話だ。

 

だが、

この異常なオカルト好きが、

 

こんなに執着するからには

只事ではないのだろう。

 

「イマジナリーコンパニオンって、

知ってるかい」

 

聞いたことはあった。

 

「まあ、簡単にいうと、

幼児期の特徴的な幻覚だね。

 

頭の中で想像上の友だちを

作りあげてしまう現象だ。

 

ただ子どもには、

幻を幻と認識する力がなくて、

 

普通の友だちに接するように

それに接してしまい、

 

周囲の大人を困惑させることがある。

 

人間関係を構築するための、

ある程度の社会性を身につけると、

 

自然に消えていくものだけどね」

 

イマジナリーコンパニオン(pixiv)

空想の友人のこと。イマジナリーフレンドともいう。

 

それならば俺にも経験がある。

 

と言っても、

覚えているわけではないが、

 

両親いわく、

 

「お前は仮面ライダーと喋ってた」

 

のだそうだ。

 

まだしも可愛い方だ。

 

『ゆうちゃん』

 

とかありそうな名前をつけて、

誰もいないのに、

 

「ゆうちゃんもう帰るって」

 

なんて言われた日には、

親は気味が悪いだろう。

 

もう一度身を乗り出して、

幼稚園の庭を覗いてみる。

 

帽子の色で年齢を分けているようだ。

 

青いタイヤのあたりには、

赤い帽子が見える。

 

赤の帽子は年長組らしい。

 

目を凝らすと、

おさげらしき髪型だけが確認できた。

 

師匠の言う、

奇妙な物体は見えない。

 

しかし、

 

この異常に霊感の強い男に

見えるということは、

 

ただの想像上の友だちでは

ないということなのか。

 

「いや、

霊魂なんかじゃないと思う。

 

気味の悪い現われ方をしてるけど、

 

あの子なりのイマジナリー

コンパニオンなんだろう。

 

僕にも見えてしまったのは、

何故なのかよくわからない。

 

ひょっとしたら彼女の感覚器が

とらえているものを、

 

混線したように、

 

リアルタイムで僕のアンテナが

拾ってしまっているのか・・・

 

あの子は強烈な霊媒体質に育つかもね」

 

そう言って師匠は、

 

慈しむような目で幼稚園児を

見つめるのだった。

 

攣りそうなくらい首を伸ばしても、

 

その女の子の輪郭以外には

何も周囲に見当たらない。

 

追いかけっこをしている一団が

タイヤの前を駆け抜けて、

 

その子の描いている絵のあたりを

踏んづけていった。

 

ここからでは表情はわからないが、

淡々と絵を直しているようだった。

 

「で、

 

その空想の友だちってどんなのです?

今もあの子の近くにいるんですか」

 

師匠は「う~ん」と唸ってから、

「なんと言ったらいいのか」と切り出した。

 

「2頭身くらいのバケモノだね。

 

顔は大人の女。

母親じゃない。

 

実在の人物なのかもわからない。

 

けどたぶん、

あの子になんらかの執着心を持っている。

 

体は紙粘土みたいなのっぺりした灰色。

 

小さな手足はあるけど、

あんまり動きがない。

 

ニコニコ笑ってる。

 

あの子の絵の上でゆらゆら揺れている。

今、僕らの方を見ている」

 

一瞬にして鳥肌が立った。

 

誰かの視線をたしかに感じたからだ。

 

(続く)ともだち 2/2

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