ある時から廊下にお菓子を置き始めた父

廊下

 

これは、我が家での怪奇な体験話。

 

俺の実家は宮城県の田舎の方にあり、上京してからは縁遠い所になった。

 

そんなこんなでしばらく連絡も取り合っていなかったが、急に親から連絡が入った。

 

「家をお祓いした」

 

そう言ったのだ。

 

曰く、「霊媒師が言うにはうちは霊道になっていた」らしい。

 

そんな話を聞かされた時、俺は「何で?」というより「やっぱり…」と思った。

 

なぜなら、俺の家は自分が住んでいた時から何か雰囲気がおかしかったから。

 

昼でも暗く、常にジメっとしていて、友達の家へ遊びに行った時に初めて自分の家がおかしいことに気がついた。

 

そんな家だから、霊感なんてない俺でも何度か奇妙な体験をしている。

 

例えば、居間で寝ていると周りが騒がしくて、日に5回ほど金縛りに遭ったり、誰もいないはずの2階からはスリッパで歩く音がしたり。

 

そしてある日から、父が2階の廊下にお菓子を置き始めた。

 

なんでも「2階に座敷わらしがいる!」と言って。

 

その時は父が病んでいるのかな?と思っていたのだが、それ以降、俺もそんな話を聞かされた気持ちのせいか、『赤い着物姿の女の子』を視界の端に見るようになった。

 

ただ、その子に対して怖さはなく、むしろ可愛いなぁという感情になり、俺も物置から昔に使っていた玩具を引っ張り出してきて廊下に置くようになった。

 

それからもその子を見たりしても、あまり気にしないで過ごしていた。

 

しばらくした頃の夜中、金縛りに遭って目が覚めた。

 

その時、机の上のライトをつけっ放しで寝ていたので、部屋の家具などがうっすらと見えるくらいの明るさだった。

 

ただ、金縛りの経験は何度もあったので、解けるまでは目を開けてじっと天井のシミなど見ていた。

 

しかし、その日はそれで終わらなかった。

 

しばらくすると、耳の中の深いところで金属が擦られるような高い音がずっと鳴っていた。

 

こういう音がする時は何か見えた気がするので、そのまま天井を見続け、それ以外は意識して見ないようにしていた。

 

金縛りのせいで目も閉じられないからだ。

 

すると、どうも机の横が気になる。

 

誰か立っている気がする。

 

見たくないなぁ。

 

そう思っていても、目は動いてしまう。

 

ギッ…ギッ…と、眼球が音を立てて動いていく感覚。

 

目の端にソレの姿が徐々に見える。

 

ソレは、赤い着物を着た女の子だった。

 

しかし、体の大きさのバランスがおかしい。

 

頭部がビニール袋にパンパンに空気を入れたように膨らんでおり、さらには怒りに満ちた表情でシワが深く刻まれていた。

 

そして微動だにせず、こちらを睨んでいる。

 

何だろう?

 

何を怒っているんだろう?

 

だが俺は脳みそをグルグルと掻き回されて、この状況を冷静に考えられなくなっていた。

 

ソレの体が沸々と揺らいでいった時に、俺は意識をなくした。

 

朝起きると、ソレはいなかった。

 

体には妙な倦怠感と、肌に張り付く寝巻きで起きる気がしなかった。

 

アレは本当に座敷わらしだったのか?

 

もっと恐ろしいものだったのではないか?

 

何者かはわからないが、俺はその日から父にお菓子を置くのを止めさせた。

 

(終)

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