森で出会った一つ目の女の子
これは、じいちゃんが住んでいる田舎の森で迷子になった時の話。
森といってもそんなに広くはなく、幼いの頃からずっと探検していたので、何処がどういう道に出るかはほぼ把握しているつもりだった。
けれど、その日は違った。
30分くらいで帰るつもりだったのに、さあ出口という所まで来たはずなのに出られなかった。
どこまで行っても、木、草、木、草。
どうしよう…と焦っていると、30メートルほど先に小さな人影を見つけた。
良かった、道を聞こう。
そう思ったの束の間、その人影はこちらを見たまま全く動かない。
しばらく私が固まっていると、ふいに人影が近づいて来た。
黒っぽい色のちゃんちゃんこを着た、見た目は人間の子供の女の子そのものだった。
どことなく古い感じもした。
ただ、目が額の部分に一つしかなかった。
私は恐怖に全身の毛が逆立っていると、その子供が「ウタ!」と呟いた。
さらに戸惑っていると、駄々をこねるように地団太を踏んで「ウタ!ウタ!」と騒ぎ出す。
そのせいで言い方は変かもしれないけれど、少し恐怖感が抜けてしまった。
歌って欲しいの?
相変わらず一つ目の子は、「ウーター!」と私の服を引っ張って騒いでいる。
本当にその子が『歌』の意味で言っていたかどうかなんてわからなかったけれど、私がとっさに思いついたのが、なぜかミニー・リパートンのラヴィン・ユーだった。
合唱団に入っていた私は歌には少しだけ自信があって、とりあえずラヴィン・ユーを歌ってみたところ、一つ目の子は途端に静かになって聴いていた。
「ラララララ…」の箇所では体を小さく揺らしていて可愛げもあったけれど、一つだけの目は終始じっと私の方を見ていた。
たぶん、歌い切ったと思う。
それまで大人しかったその子が、突然「ン!」と言って指差した方向を見ると、じいちゃんの家がある村が見えた。
やった、出られる!
そう思って瞬間的にもう一度その子の方を見ると、もう私の側にはおらず50メートルほど先にいて、そのまま森の奥へ消えていった。
いやいや、ありえないから…。
私は突然の出来事にまた凄く怖くなってしまい、急いで森から出た。
それ以降、あの森には一度も入っていない。
怖いのか不思議なのか、よくわからない体験だった。
(終)