巣くうもの 2/2
数日後にAを捕まえて経緯を聞いたら、
げんなりした顔で色々教えてくれた。
あの古井戸が、
マジで危ない本物だったのは予想通り。
A「家の正面に居る分には大丈夫だけど、
裏に回って井戸まで見たらダメ」
だそうだった。
問題は俺らを助けてくれた妙な影なんだけど、
Aは凄い嫌な顔で、
A「あれはBの・・・何て言うか、
憑いてるものなの」
と言った。
AがBを避けてたのは、
嫌いだからじゃないそうだった。
ただ、Bに纏わり憑いてるものがいて、
それが凄く強くて薄気味悪いものだったんだと。
初めはBに取りついてる霊か、
と考えたがどうしても違和感があって。
ある日、Bから出てくる『それ』を見て、
不意に気づいたんだそうだ。
『それ』は『Bの中』にいるんだと。
A「・・・Bが、あれのいる世界に繋がってて
出入り口になってるのか、
それともB自体があれの棲む場所なのか、
どっちかだと思う」
Aもよくは解らないようで、
とにかくそれはBから出てきて
また戻っていくんだと言っていた。
他の霊的なものは全部Bを避けるそうで、
多分あれのせいで近寄れないんだとも。
A「あれは私たちを守ったんじゃないし、
Bのことも大事だとかじゃないと思う。
ただ、ドアとか家が壊れたら困るでしょ。
だから・・・」
何とかした方がいいのか、と思っても、
Bは本気では霊を信じていないようだったし、
普通の霊じゃないから払えるとも思えなかった。
だから放っておいたけど、
自分は近寄りたくなかったんだ、
とAは言った。
ただ、『それ』がBを深刻な危険から
守っているのは知っていた。
そしてあの日、
俺らが本当に危ない場所に行くと感じて、
止められないならBの中に居る『それ』に
守ってもらうしかない、
と考えて付いて来たのだという。
A「あれが守るのはBだけだからね。
少しでも離れたら、井戸から来てた方に
憑かれて人生終わってたよ。
俺君も、他の皆も」
言われて背筋が寒くなったのを紛らそうとして、
俺「・・・でも、何だろうな?Bに憑いてるのって。
結構よくないか?結局守ってくれるんなら」
そう言ったら、Aは羨むような蔑むような
複雑な眼を向けてきた。
A「あのね俺君。お腹に住みついた寄生虫が、
孵化するまでは守ってくれるって言ったら、
それって嬉しい?」
俺「・・・」
・・・何となく、言いたいことが解った。
Bに巣くってるモノは、
とにかく自分だけの都合でBの中に
居座ったり顔を出したりするわけで、
ひょっとしたらBから何かを
奪ってるのかもしれないわけで。
いつか自分の都合でBをぶち破って
出て行ったりするかもしれないわけで。
その時には周りにも影響するかも
しれないわけで。
しかもBは本気で何ひとつ
全く気づいていないわけで。
A「放っとくしかないんだよね」
そう言ってAはため息をついた。
A「井戸から出て来た方も凄かった。
神様が最悪の状態になったみたいな感じだった。
並みの霊能者とかじゃ負けちゃうだろうって
思うくらいの奴だった。
あんなのと渡り合える、Bの『あれ』も、
どうせ何やってもどうも出来ない」
それから時間が経って、俺もAもBも社会人。
ふと思い出したんで書いてみました。
理由はBから連絡あったから。
結婚した上に、子供も生まれて
元気にやってるそうです。
Aに電話してそう言ったら、
A「Bが寿命になるまで、
あれが大人しくしててくれたら、
それが一番いいよね」
と言ってたところからして、
Aは、Bが今もあれを背負ってると
確信してるようです。
普通の霊と違う、そして
人間の『中』に居る『何か』って、
何なんでしょうね?
いや、井戸の底のミニハウスから来た、
金属音も気になりますが。
余談ですが、Bは怪談と共に時々、
『本当の霊体験がしてみたい!
一度もないんだよね』
と言っていました。
上の話の前後にも、
肝試しやらコックリさん系の遊びやらを
試してみていたようですが、
全敗らしかったです。
後にAが言ったところでは、
A「無理だと思うよ。アレはB本人には
見えないようになってるみたいだし、
他の霊は、霊感のあるなし以前に、
全く何もBに近づかないから。
井戸のあの音はちょっと並じゃなかったから、
近づこうとしたんだろうけど。
だからBのアレも、Bを眠らせて
全力でやったんじゃないのかな。
これは想像だけど」
そう言えば、
あの夜はAがあんだけ叫んだのに、
Bは眼を覚ます気配もなかったな、
と思いました。
俺は、それより前にBが雑談で、
『家で一人でコックリさんしたけど反応ないし、
眠くなってそのまま昼寝しちゃった。
あーゆーのって中々、成功しないね』
と言うのを聞いた記憶があります。
・・・いや、成功してたんだったりして・・・
というか、だとしたら、
その時は何が来てたんだか・・・
(終)
シリーズ続編→呪いの部屋 1/2へ