電柱の前で手を合わせていた女の子
これは、俺が小6の時に体験した話。
俺の実家の近くには、事故の多い交差点がある。
そこは見通しの悪い場所なので「そんなもんか」と思っていたが、ある日の下校途中、小3くらいの女の子が電柱の前で手を合わせていた。
「あれ?事故で人が死んだのかな?」と思って、家に帰ってからお婆ちゃんに聞いてみた。
ああ、助けられたんだ。
「あそこの通りで事故あった?」
しかし、お婆ちゃんは知らないと言う。
人が死ぬほどの事故なら、近所ではちょっとした騒ぎになるはずだ。
ならば、あの女の子は何をしていたんだろう。
数日後、帰り道でまたその女の子が手を合わせていた。
下級生だから声をかけやすかったのだろう。
俺は「何してるん?」と話しかけた。
女の子は顔をこっちに向けた。
きりっとした感じで、意志の強そうな目をした子だった。
女の子は「お祈り」とだけ言うと、また電柱の方へ目を向けた。
そして、「昔死んだ人がここに来てるから」と。
俺はそんな光景を可笑しく感じてしまい、「え~そんなん見えるん?」と嘲笑すると、彼女は眉間にしわを寄せ、そのまま歩いて行ってしまった。
霊がそこにいるなんて信じなかったが、彼女が振り返って去る時の表情を見た時、バカにする気にはならなかった。
それから随分と日が経ち、俺は親戚の子たちと一緒に遊びに行った時だった。
俺がその場所の近くの交差点で飛び出してしまい、凄いスピードで走ってきた車に轢かれそうになった。
いや、つま先は靴の上から轢かれていた。
ただその瞬間、ギュッと足の指を丸めたから怪我はしなかった。
親戚の子たちは「大丈夫!?」と駆け寄って来たが、俺は周りをキョロキョロと見回していた。
なぜなら、明らかに轢かれそうになった瞬間、グイッと襟首を後ろに引っ張られたからだ。
親戚の子たちは5メートルくらい後ろにいた。
しかも、親戚の子たちの「危ない!」の声と重なって、低い声でも「危ない」と聞こえた。
「誰か引っ張った?」と聞いても、誰も知らないという。
後日、偶然手を合わせていた女の子と学校で顔を合わせた時、「気をつけないと」と言われた。
その時にようやく俺は、「ああ、助けられたんだ。この子は聞いたんだな」と悟った。
俺は「お礼がしたいんだけど」と言って、学校帰りにその交差点で一緒に手を合わせた。
30秒くらい目を瞑って手を合わせた後、女の子が「おまけ」と言って俺の手に触れた。
本当にびっくりした。
目の前に居なかった(見えなかった)はずの人が見えたことに。
50歳くらいの細身の白髪まじりのおじさんだった。
優しそうな顔をしている、と何となく感じた。
そして、「じゃあね」と女の子は走って行ってしまった。
電柱を振り返ると、もう何も見えなかった。
俺はもう一度お辞儀をして帰った。
(終)