ホステスとして働いていたスナックにて
私は老舗のスナックでホステスとして働いていたことがあるのだが、裏口を出た辺りでスーッと横切る男性がいるのをたまに見かけた。
店はビルの3階の角で、男性の進行方向は行き止まりだった。
そのまま進んだら、柵を越えて落下してしまう。
霊だな・・・とすぐ分かったが、不思議と恐怖感はなかった。
その男性を何回か見た後、ママにそのことを尋ねてみた。
すると、「それ、○○さん。常連さんだったけど、ここのすぐ近くで交通事故で亡くなった人でね。携帯が鳴るとよく裏口に出て話してたから、多分そうだよ」とのこと。
他にも、入り口のドアが開いていないのに「チリン♪チリン♪」とベルの音がしたり、お客様の間に入り込んでいる影みたいなものが見えたりした。(ベルの音については、私とママ、そして霊感強めなお客さん数名にしか聞こえていなかった)
どんな現象が見えたり聞こえたりしても、なぜか全く怖くなくて、まるでお盆にご先祖様を迎えているような気分だった。
ママは、「私も年だし、もうこの店を閉めようかとも考えたんだけど、懐かしい人が来てくれるからやめられない」と言っていた。
その『懐かしい人』とは、死別したママの旦那さん。
私は実際に会ったことはなかったが、ママの視線や表情で『この人だな』というのは分かった。
その人が来た時には、カウンターの隅に水割りを作って置いていた。
(終)