テレビ局の保管庫で見つけたテープと台本

廊下

 

これは俺の懺悔でもある。

 

かなり前の出来事だ。

 

高校時代に仲の良かった友に、

偶然再会した。

 

懐かしくて飲みに行く事になった。

 

その時は俺も友もフリーターで、

その日暮しの状態。

 

でも、友のバイトは、

テレビ局の関係だったんだ。

 

よく芸能人の○○を見たとか

自慢していた。

 

住んでいる所が割と近かったので、

ちょくちょく遊ぶようになった。

 

ある日、

 

友が興奮した感じで

変な物を持って来たんだ。

 

ビデオテープと汚い書類。

 

そのラベルには、

 

『心霊廃墟に挑む!』

 

みたいな事がマジックで書かれていた 。

 

その上から赤のマジックで、

大きく『×』と書いてあった。

 

書類を見てわかったのは、

番組の台本だという事。

 

日付はかなり昔、

心霊ブームだった頃のもの。

 

友は保管庫の処分品の中から

見つけてきたと言った。

 

局の改装があって、

ゴミ運び中に見つけたと。

 

業務用のビデオテープだったので、

普通のデッキでは再生できなかった。

 

マニアな知り合いの所に行って再生したが、

中身は消されて空だった。

 

今はGW明けで道も空いているから、

そこへ探検に行こうと友が言い出した。

 

俺は当時、

心霊をまったく否定していた。

 

だから楽しそうだと思ってしまったんだ。

 

行く事になったんだ。

 

友が金を払って、

先輩から4WD車を借りてきた。

 

ガラガラの高速を乗り、

台本に書いてある所へ向かった。

 

俺達が興味を持ったのは、

書かれていた場所が意外な所だったから。

 

普通、

 

人が死んだ滝とか、

自殺者が多い橋とかだよね。

 

国の施設だったんだ。

 

『試験場跡地』

 

これしか書けない。

 

すまない。

 

友は、企画が中止しているし、

意外な場所だからマジなんじゃないか、

 

と興奮していた。

 

場所はものすごい山の中。

 

うっすらと車の轍が残っているのを頼りに、

藪の中を車で進んでいった。

 

かなり危ない急勾配を登っていった。

 

ほとんど崖だった。

 

今思うと、テレビ局が通る為に

切り開いた道だったと思う。

 

正面に大きいゲートがあって

封鎖されていたから、

 

さすがにもう進めないと思った頃に、

急に開けた場所に出た。

 

かなり大きい建物だった。

 

人の気配は感じなかったけど、

廃墟っぽくはなかった。

 

窓とか割られていないし、

 

よくあるイタズラ書きなんかも

一切なかった。

 

むしろ、

キレイな感じだった。

 

未使用みたいな。

 

友は急に興奮が冷めたようだった。

 

鳥の声とか聞こえなくなったよ、

とか言って怯えていた。

 

たしかに異常なほど静かだった。

 

風の音さえなかったと思う。

 

この時はもう夕方で、

建物が茜色になっていた。

 

俺は本当に信じていなかった。

 

馬鹿だった。

 

友はかなり嫌がっていたし、

やめようと言い出した。

 

「お前が誘ったんだろう」

 

と言って、

友を連れて中に入った。

 

俺は本当に無知だった。

 

正面の大きなガラス戸は、

片方が外れていた。

 

中は新築同様で、

すごく異様だった。

 

なんで廃墟なんだ?

と思った。

 

すぐにでも利用できそうな状態だった。

 

キレイな廃墟だなと友に言ったが、

上の空だった。

 

友は帰りたいと言い出したが、

まだ入り口からすぐの通路だった。

 

俺は2階も見てみようと言ったが、

友は行きたくないと。

 

俺は友を意気地なしだと言って、

2階へ上がった。

 

2階に上がると長い通路が待っていた。

 

突き当りまでずーっと窓が続く、

学校の廊下のような感じ。

 

その途中にソファーの置いてある、

喫煙場所みたいなところがあった。

 

床にはカメラが転がっていた。

 

撮影用だと思う、大きいカメラ。

 

なんだか壊れている感じで、

埃が被っていた。

 

俺は急に怖くなったんだ。

 

ここで何かが起こったんだと思った。

 

その時、

1階から友の声が聞こえてきた。

 

叫んでる感じじゃなく、

一定の声で「アー」と言っている。

 

急いで降りたら、

 

通路の入り口から反対側の

突き当たりにいた。

 

本当に怖かった。

 

友は突き当たりの壁に大の字になって

ピッタリくっ付いていた。

 

・・・壁に向かって。

 

俺は近づいて声をかけたが、

 

「アー」

 

と言ったまま、

壁に向いたままだった。

 

肩を掴んだ瞬間、

 

「ぎゃははは」

 

と笑い始めたかと思えば、

壁に向いたままだ。

 

俺はもう、

どうしようもなかった。

 

怖くて恐ろしくて、

逃げ出した。

 

停めてあった車まで戻ったが、

鍵は友が持っていた。

 

俺は戻りたくなかった。

 

だけど、

どうしようもなかった。

 

建物に戻ろうとしたら、

友が窓からこっちを見ていた。

 

笑っていた。

 

口が裂けるんじゃないかと

思うぐらいの勢いで笑っていた。

 

俺は友のイタズラに

騙されたのかと思ったが、

 

違った。

 

よく見ると、

泣きながら笑っていた。

 

窓にべったりとくっ付いて、

すごい笑っていた。

 

夕日が窓からずれて反射がなくなり、

建物の中が見えた。

 

・・・絶句した。

 

友の周りには、

 

1階の通路を全部埋め尽くすように、

大勢の人がいた。

 

よくは見えなかったが、

 

人の形をしていた何かが

友に押し寄せるように、

 

満員電車みたいにひしめいていた。

 

俺はもうその時、

発狂していたと思う。

 

山を駆け下りて、

自力で街まで降りて来ちゃったんだ。

 

その時はもう夜で、

俺はなんとか駅まで来れた。

 

疲れたという感覚はなかった。

 

少しでもあの場所から遠ざかりたかった。

 

運よくタクシーがつかまり、

住所だけ伝えて頭を抱え震えていた。

 

窓を見たら何かが居そうで怖かったんだ。

 

家に着いたら布団に潜ったが、

怖くなってコンビニで朝まで過ごした。

 

朝になって落ち着いたら、

重大な事をしたと後悔した。

 

友を置き去りにした。

 

でも二度とあそこには行きたくない。

 

バイトを無断で辞めて、

ブラブラしていた。

 

軽く不眠になりながら、

ファミレスとかで夜を過ごしていた。

 

しばらくして友に電話をしたら、

戻って来ていた。

 

俺はなんて言っていいか

わからなかったが、

 

友は「何が?」と言っていた。

 

自分がどうなっていたのか、

覚えていなかった。

 

1ヵ月後に友は死んだ。

 

自殺か事故かはわからなかったが、

あそこに行ったせいだと思う。

 

そして俺のせいだ。

 

俺が逃げたせいだ。

 

テレビ局もアレに遭って、

取材を中止したんだと思う。

 

あそこは人が入っていい

場所じゃないんだ。

 

GWになると、

いつも思い出してしまう。

 

悩みを人に聞いてもらうと

楽になるというが、

 

少し気持ちが楽になった気がする。

 

ありがとう。

 

(終)

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