霊の存在を全員が認めた会社 1/2

オフィス電話

 

昔付き合っていた彼女の影響か・・・

 

視界の端っこの方に、

 

本来見えてはいけない人たちが

見えるようになってしまった。

 

最初の頃は錯覚と思い込んでいたが、

 

地元の飲み屋に行った時に、

トイレの前で体育座りをしている女の子を、

 

「あの子、寂しそうなんだけど」

 

と、リスカ痕のある娘に話したところ、

 

「あなたも見えるんだ」

 

と言われたことにより、

見えることを認識し現在に至る。

 

つい先日の盆前、

会社内での出来事の話。

 

私の任されている課は、

工事やメンテナンスが主な業種の為、

 

とにかく残業が多い。

 

総勢といってもたった7名の部署だが、

全員帰社が遅くなるという事で、

 

私一人、社内で全員の帰社を

待つことにした。

 

遅れている仕事を取り戻そうと、

 

躍起になってPCにデータを

打ち込んでいたところ、

 

電話が鳴った。

 

「はい」

 

相手は何も言って来ない。

 

間違いだろうと思いながら電話を切り、

PCの画面を見た瞬間に気が付いた。

 

「今の・・・内線だよ・・・

社内には誰もいないはず・・・」

 

間仕切りはしてあるが、

 

全ての部署が同じフロアに入っている

極々小さな会社だ。

 

入った内線の番号は『11』。

 

ホントかよ・・・

 

先月、鬱になって辞めた奴の

デスク(空席)からだった。

 

間仕切りの上から実体の無い誰かに

覗き込まれている気がしてしまい、

 

仕事に身が入らない。

 

時計は夜10時半。

 

駐車場を挟んで国道に面している為、

交通量は多い。

 

「駐車場でタバコでも吸って、

気分を入れ替えよう」

 

立ち上がって向きを変えた途端、

視界の端にスーツ姿の男が見えた。

 

私はいつもの気付かないフリをしながら

階段へのドアを開けると、

 

今度は給湯室に入っていく

男の後ろ姿を見るが、

 

これも気付かないフリで

階段を駆け下りた。

 

裏口のドアを勢いよく開け、

 

ゆっくりとタバコを吸いながら

落ち着きを取り戻す。

 

フロアに戻らずこのまま全員の帰社を

待つ事も考えたが、

 

電話の応対が出来なくなってしまう。

 

これは無理な考えだ。

 

「そう真夜中という時間ではないし、

目の前にはこんなに車が走っている。

 

まだ出て来る時間帯ではないだろう」

 

無理矢理自分に言い聞かせ、

気分転換にトイレに立ち寄った。

 

これが、いけなかった。

 

強がりを言ったところで、

社内には私一人である。

 

トイレの入り口ドアを開けたまま、

小便をしていると、

 

キィィ・・・・・・バタン!!

 

ドアが閉まった。

 

背筋がぞっとし冷や汗が出てくるが、

何事も気付かないフリをする。

 

私は今まで全てを、

そうやってやり過ごしてきた。

 

変な自信ではあるが、

大丈夫だろうという気持ちはある。

 

しかし、

 

ここで手を洗いながら鏡を見るような

強い精神は持ち合わせていない為、

 

手も洗わず鏡を見ないように、

入り口のドアを開ける。

 

開かない・・・

 

押す・引くを間違えたとか、

そんな洒落では済まない・・・

 

視界の左端には鏡がある。

 

一番右の鏡に映っているのは私。

 

じゃあ・・・

真ん中の鏡に映っているのは誰だ?

 

鏡に対して正面を向いている奴は誰だ!?

 

「ドン!ドンドンドンドン!」

 

裏口ドアから勢いよく、

音が飛び込んできた。

 

と同時に、

トイレのドアが開いた。

 

確認もせず裏口を開けると、

 

真っ黒な姿の部下達が、

ブスッとした表情で立っていた。

 

私は安堵の表情で「お疲れさん」

と声をかけると、

 

部下達が開口一番言い始めた。

 

「カギ開けといてくださいよー」

 

・・・当然閉めたつもりはない。

 

「なんかあったんすか?

 

えらい何回も会社から電話がありましたけど、

出ると切れちゃうんすよ。

 

何回もっすよ!?」

 

「俺はフツーに帰社何時になる?

って聞かれたけど、

 

課長からじゃないんすよ。

誰だろ?」

 

「俺、電話は無かったけど、

裏口は開いてないし、

 

駐車場に着いた途端に

フロアの電気消えるし。

 

いじめられてるのかと思った」

 

等々。

 

「いやいや、社内は私一人だよ。

私も今散々な目に遭ってたところだよ」

 

皆キョトンとした顔をしている。

 

「まぁ全員帰って来たことだし、

伝票は週明けの朝イチに出せばいい。

 

今日は何か変だ。

 

机の上だけ整理して、

即帰ろう」

 

「あれ?」

 

皆で階段を上りながら、

現場班長が声を出す。

 

「誰かまだいたんすね。

今、給湯室に誰か行きましたもん」

 

・・・そんなはずない。

 

「ん?倉庫にも誰かいますって。

どうしたんすか?課長」

 

・・・絶対にいない。

 

なぜか真っ暗になってしまったフロアを、

ガラス戸越しに見る。

 

部下達が勢いよくガラス戸を開ける。

 

!!!

 

「わぁっっ!!」

 

先頭に入った班長が後ずさりする。

 

なんとフロア内に、

鬱で辞めたはずのKがいる!

 

凄い形相でこちらを睨みつけている。

 

「Kさん!」

 

皆一同に声を出し、

 

私も思わず「なにやってんだ!」

と言ってしまった。

 

「でんき!電気!!」

 

と誰かが声を出す。

 

慌てて電気を点けると、

Kが消えた・・・

 

(続く)霊の存在を全員が認めた会社 2/2

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