霊の存在を全員が認めた会社 2/2
「やばい!やばい!やばい!」
班長がそう叫ぶと、
他の部下達もそれに追従し始め、
ただならぬ雰囲気を感じ取ったようだ。
「大事な物だけ取って、
早くここを出た方がいい。
早くしろ!」
皆一斉に走り出す。
私の大事な荷物は
ポケットに入っていた為、
フロア入り口のドアを半開きに
足で支えながら、皆を待った。
その時!
フロアの電気が消えた・・・
私の後ろにも誰かがいる・・・
給湯室から戻って来たのだろうか・・・
シーンとしたフロア内で、
いきなり「ドン!ドン!ドドドッ!!」。
ものすごい音が鳴り始めた。
真下の倉庫からの突き上げ音。
屋根から何十人という人数による、
足踏み音。
あまりの大きさに一瞬平衡感覚を失い、
よろけそうになる。
「うわぁぁ!うわぁぁ!!
まど!窓!窓!!」
誰かが叫ぶ。
私たちは見られていた・・・
窓の外には大勢、
まさしく何十人という人数の者たちが、
こちらを凝視していたのだ。
堪らずに座り込む。
「ダメだ、無理だ・・・」
私はこの言葉を、
ずっと言っていたような気がする。
顔を上げる事が出来ない・・・
「ドン!ガシャーン!」
外で事故が起きたようだ。
いつのまにか音は消えていた。
すかさず皆荷物を抱え込み、
階段を駆け下りて外に出た。
会社の駐車場と歩道の境目の花壇が
見事に破壊され、
社旗掲揚ポール寸前のところで、
大型トラックが止まっていた。
思えばこの事故のおかげで
正気を取り戻せたような気がするが、
運転席を覗き込むと、
ハンドルに顔を埋めた運転手がいる。
「大丈夫ですか?」
声をかけると、
「あぁぁーあぁぁー」
と声にならない呻き声を発している。
「やっちったーやっちまったぁー」
「まぁ、まだ自爆だから。
相手がどうこうっていうのはないから」
「え?えっ?
いきなり集団で飛び出して来て・・・
やっちったーって・・・」
ホントかよ・・・
間違いない、
さっき私たちを見てた者たちだ。
(大丈夫。
あれは生身の人間じゃないから)
と言いたかったが、
なぜかその時はグッと堪えてしまった。
社内に戻る気はさらさらなかった。
相手はいないし、
物損のみの事故である。
運転手の免許証をデジカメで写し、
ナンバーも撮った。
今日はレッカーを呼び、
メーカー修理工場で朝を待つとの事なので、
私は名刺を渡し、
会社をあとにする。
誰も一人になりたい奴など
今日はいなかった。
外の水道で顔を洗わせて、
着替えもさせる。
そのまま皆で屋台に行き、
朝まで飲んだ。
とにかく太陽が昇るまで、
帰りたくなかった。
明日からは夏期休暇だ。
そして夏期休暇明け・・・
休暇中に総務の者へ連絡しておいたせいか、
花壇破壊に対する驚きの声は、
ほとんどと言っていいほど無かった。
部下達からの声も、
「あの日はちょっと
信じられないっすよねぇ」
などと、
思ったよりショックはなさそうだった。
総務から内線が入り、
打ち合わせ室に入る。
「例の事故の運転手の会社へ
電話しました。
会社に戻っていないようです・・・
というか、
戻れませんでした。
あの事故の後、
メーカー修理完了後に、
今度はガードレールを突き破る事故を起こし、
道路下に車ごと落下し、
死亡しました・・・」
「うそだろ?」
「本当です。
地方紙ですが新聞にも載ったという事で、
保険屋さんに提出するための記事を、
こちらにも送ってもらう手配を
取ったところです。
それと・・・Kさんですが、
亡くなってはいないですよ。
今のところは。
ただ、未遂を起こしたとのことで、
今ちょうど死の淵を彷徨っている
ところらしいです」
ん?
じゃあ、Kの生き霊だったのか?
Kがここに来た理由が分からない。
多分、守ってくれたんだと
勝手に思う事にした。
Kが鬱になったのは、
仕事内容ではなく、
もしかしてこれだったのか?
人一倍残業が多かったKは、
この事(大勢の霊の存在)を誰よりも
よく知っていたのかもしれない・・・
その後、
誰もいないはずの倉庫で、
陳列棚の倒壊が二回。
他の者が残業している間に、
裏口からひっきりなしの呼鈴があり、
開けたら誰もいない。
と思ったら、
フロアのドアが開く音。
給湯室での女性事務員失神事件等々。
休暇明けの辞表提出者3名という、
なかなかお騒がせな会社である。
ましてや、
今現在も当然『それら』による
現象は続いており、
最悪の社内環境である。
御祓いもしたが、
御札はどこかに吹っ飛ばされ、
サカキは次の日に葉がほとんど取れ落ち、
水はスッカラカン。
塩なんぞは、
誰かが全部舐めてしまったかのように
キレイに無くなっている。
社内総勢約50名が、
霊の存在を信じる事となった。
社名を挙げる事は出来ないが、
今現在でも求人募集をかけている。
日本一長い国道沿いの会社への就職は、
念のため気をつけていただきたい。
(終)