ベランダに置かれていた赤い柄のハサミ
かなり前に団地に住んでいた時、
ベランダにハサミが置かれていた事があった。
もちろん俺のではない。
市販で売っているような、
柄が赤い色をした小さいハサミ。
俺の家は一階だったから、
子供がイタズラしているのかな、
ぐらいにしか考えなかった。
しかし、
それが10日ほど続いた。
ハサミ事件は進展する・・・
その日もハサミが置かれてあるのが
部屋から見えた。
ちょうど見ていたテレビが後もう少しで
終わりそうだったので、
その番組が終わってから、
いつものように捨てようと思った。
やがて番組が終わり、
ベランダを見るとハサミが無い。
時間にして5分ほど。
ベランダの戸は開けて網戸にしておいたので、
テレビを見ているとはいえ、
誰か来ればすぐに分かる。
あれ?と思い、
ベランダに出てみた。
すると、隣との境界になっている薄い壁を、
向こうから思いっきり叩く音がした。
ビックリして思わず仰け反ると、
上から赤い柄のハサミが7~8個、
一気に降ってきた。
もし仰け反っていなかったら危なかった。
確実に壁一枚隔てた隣のベランダから、
無言でハサミを投げ入れていた。
そういえば、
隣人を全くと言っていいほど見なかった。
居る、ということは、
物音などで分かっていたけれど・・・
だから当然、
恨みを買われるような事はしていない。
それからも一年程そこに住んでいたけれど、
こんな事があったのは、
後にも先にもこの時だけだった。
なので余計に怖かった。
(終)