雷雨の晩、我が家の玄関前に謎のギャル
これは、私が小学生の時にあった話。
父と母、そして弟と私の家族四人で団地に住んでいた。
一日中、雨が凄くて雷もゴロゴロとうるさかったある晩、トイレに行こうとした母が突然慌てた声で、「玄関の前に誰かおる!」と父を叩き起こした。
その声で起きてしまった弟と私には、「あんたらは部屋におり」と言い、父を先頭に母と二人で玄関に向かった。
そこに居たのは・・・
父が恐る恐る扉の覗き穴から外を見ると、そこにはギャルが一人、携帯をいじりながら階段の一段目に座っていた。
「女の子が座ってる」、「こんな夜中にどないしたんやろ?」という声が聞こえてきた。
母は玄関にチェーンを掛けて扉を開け、「あんた、こんな夜中にどないしたん?」とギャルに声をかけた。
するとギャルは、「マサヒロさんのお宅やないんですかぁ?」と言った。※名前は仮名
「マサヒロさん?そんな人、知らんで?」
「でもぉ、マサヒロさんがここの住所言うてたんですよぉ」
「あんた騙されてるんちゃうの?」
ギャル曰く、最近知り合ったマサヒロという男に、「両親に会わせたいから家に来てよ」と言われ、ここの住所を聞いて来たとのこと。
駅から歩いてここまで来たけれど、マサヒロと連絡がつかず困っていたらしい。
「もう遅いし、電車も終わってるやろ?旦那と家まで送ったるから、ちょっと待っとき」
「いえ、大丈夫ですぅ。一人で帰れるんでぇ」
「じゃあ、タクシー呼んだるから」
「大丈夫ですぅ」
「こんな雨の中、どないして帰るんよ?」
母とギャルのこの押し問答が続く中、部屋で待機していた弟と私は様子が気になり、部屋の襖を少し開けて玄関の方を覗いてみた。
金髪のロングでミニスカートを履いたギャルと、スウェット姿の父と母が見えた。
「じゃあ、せめて傘くらい持っていき」
「はぁ、ありがとうございますぅ」
「ほんま大丈夫なんやね?」
「はいぃ」
「気をつけて帰るんやで?」
「ありがとうございましたぁ」
お礼を言うギャルの声と、扉が閉まる音が聞こえた。
そして、ため息をつきながら母が、「あんな若い子、こんな時間に出歩かせて親は何してるんやろなぁ」と言って布団に入った。
すると今まで黙っていた父が、「あの子、一日中豪雨やったのに傘持ってなかったよなぁ。なんで濡れてなかったん?」と。
それに対して母が、「そ、そういえばそうやなぁ・・・」と言った後、弟が私に向かって、「お姉ちゃん、お母さんは誰とお話してたんやろ?誰もおらんかったよね?」と言った。
その瞬間、顔面蒼白になる父と母と私。
父は慌てて立ち上がると玄関へ行き、扉の覗き穴から外を見ると、そこには渡したはずの傘が転がっていた。
もう十年くらい前の話で、五年ほど前から私たち家族は別の場所に住んでいる。
当時、四つ隣の家の息子がマサヒロという名前で、『宗教の勧誘のために手当たり次第に女の子に結婚をちらつかせ、入信させては振っていた』との話を聞いた。
「その中の女の子の一人か?」と父と母は憶測しているが、あのギャルは一体何者だったのか、未だに謎のままとなっている。
(終)