秘密の隠れ家に落ちていた赤い鞠

鞠

 

僕が小学生の頃に体験した話です。

 

家の近所に一軒の“空き家”がありました。

 

その家は昔に旅館を経営していた様子で、山奥の長い一本道を上っていくと突然現れます。

 

小学生が誰しもが憧れる”秘密の隠れ家”にはもってこいの場所でした。

 

僕は友人たちと共に学校が終わるとそこへ集まり、夕飯時になるまで色んな事をして遊んでいました。

 

そんなある日、その空き家に“出る”という噂がどこからともなく湧き上がりました。

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鈴の音は僕たちを囲むように・・・

「そこの旅館の持ち主が首を吊って自殺した」とか、「誰も居ないはずの家の窓から、和服を着た女が外を眺めていた」などと。

 

僕たちは仲間外れにされた誰かがそんな噂を流しているんだろうと、気にもせず隠れ家を愛用していました。

 

しかし噂は他のクラスの生徒にも広まり、彼らが秘密の隠れ家を見に来るようになりました。

 

隠れ家に思い入れの深かった僕たちは、他の生徒らと縄張り争いのケンカをよくしていました。

 

そんな時、僕たちが隠れ家に居ると他のクラスの生徒らが空き家に石を投げ、ガラスを割り始めました。

 

「なんだ?あいつら?」

 

僕たちも必死になって、エアガンを打ったり部屋にある物を投げ付けたりして応戦しました。

 

パリン、パリン、とガラスの割れる音が空き家に響きます。

 

僕は転がっていた竹細工の赤い鞠(まり)を手に取りました。

 

中に鈴が入っているようで、振ると「チリーン」と音がします。

 

鞠を投げ付けようとした瞬間、相手の彼らが驚いた顔をしていました。

 

僕はそんな事は気にせずに、彼らに鞠を投げ付けました。

 

狙いが逸れ、地面に落ちた鞠が転がり、再び「チリーン」と音を立てた瞬間・・・

 

「ガシャーン!!」

 

という音と共に、家中のガラスというガラスが全て割れてしまいました。

 

僕たちも彼らもビックリして、急いで空き家から逃げ出しました。

 

一気に山の麓(ふもと)まで下ると、さっきまでケンカしていた彼らとも、同じ恐怖を体験した身として、何故か親近感が湧きました。

 

僕は息も絶え絶えに、ケンカ相手だった彼らに話しかけました。

 

「さっきビックリしたよな。ガラスがいっぺんに割れるなんて」

 

「え・・・?」

「ヤバイって。そいつと話すな!」

 

「何だよ。おまえら」

 

「だって、お前の後ろに女がいたぞ?!」

 

どうやら、僕が赤い鞠を投げる瞬間、背後に女が立っていたそうで、その赤い鞠を投げるのを止める様に、僕にしがみ付こうとしていたらしいのです。

 

僕はビビリながらも平気なフリをしていました。

 

その場は解散となりましたが、僕の友人の一人が「空き家に忘れ物をした」と言います。

 

忘れた物自体は大した物ではなく、さっきの事もあり、正直なところ僕は行きたくありませんでした。

 

しかし、ビビっている姿を見せたくもないので、一緒に付いて行く事になりました。

 

空き家に向かう道のりで、僕は赤い鞠について話していました。

 

「だから、「チリーン」と鞠が音を立てた瞬間、窓が全部割れたんだよ!」

 

辺りは薄暗くなってきました。

 

空き家が見えてきた、その時でした。

 

「チリーン」

 

鈴の音がします。

 

友人と顔を見合わせました。

 

さっきの赤い鞠が転がっているのかと、辺りを見渡しました。

 

赤い鞠は確かにありました。

 

しかし、誰かに踏み付けられたのか、グシャグシャに潰れています。

 

「チリリーン」

 

また鈴の音がします。

 

僕も友人も顔色が変わり始めました。

 

「鞠の鈴だけ取れてどこかで鳴ってるんだよ」

 

そう友人が呟きました。

 

「チリーン」

 

音は空き家の方から聞こえます。

 

「チリリーン」

 

だんだんと音が近づいて来ているような気がします。

 

坂道なので、取れた鈴が転がって来ているのかな、と思っていると・・・

 

「チリリリン!」

「チリリリン!」

「チリリリン!」

 

どうやら一箇所ではなく、複数の箇所から僕たちを囲むように鈴の音が鳴り始めました。

 

次の瞬間、僕と友人は同時に逃げ出しました。

 

その後、誰もその空き家に近づこうとはしなくなり、間もなくして、その空き家は小学生たちが溜まるという事で取り壊されました。

 

(終)

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