車のサイドミラーに映る女の幽霊 2/2
幽霊の手は当然冷たいのだろうと
今まで想像していたが、
全然冷たくはなかった。
私の腕の上に白い腕が乗っかって
手首を掴んでいるわけだが、
冷たいどころか、
捕まれている感触も重みも
何も感じない。
ただ見えているだけ。
キュンキュンと金縛りは強くなってきて、
ハンドルを切るにも
脂汗が出るような状態だったが、
冷たくもなんともない、
ただ見えているだけの邪魔な腕に、
瞬間的にブチ切れた。
同時に、金縛りも解除。
思いつく限りの罵詈雑言を腕に浴びせ、
怒鳴る勢いで車を走らせ、
またあのコンビニへ飛び込んだ。
店員がこっちを向くなり「ひっ!」と、
抜けた悲鳴をあげ凍りつく。
「うぞっっ!?」と思い、
自分の肩を見た。
振り切ったと思っていた白い手が、
ブラーンと肩から垂れ下がっている。
「ついてきちゃった・・・
どうしよう・・・」
しかし、混乱する頭より早く、
極度の緊張を生き延びてきた
自分の体が勝手に、
しかも、本来の自分では考えられないほど
俊敏に行動を起した。
私は颯爽とドアを開けて店の外に出ると、
肩に張り付いている白い手をガッチリと掴み、
そのまま背負い投げをかました。
無我夢中。
背負い投げなんて、
生まれて初めてだ。
が、今まで何の感触もなかった
白い手だったのに、
投げる瞬間に掴んだ腕の
ブヨっとした感触、
背中に圧し掛かる、
人としか思えん体重を感じてしまい、
その気持ち悪さと緊張の糸が切れて、
その場に座り込んでしまった。
店員が恐る恐る店から出てきて、
声をかけてくれる。
店「あの・・・大丈夫ですか?」
私「(あぅあぅ・・・)なんとか・・・ええ・・・
ってよりさぁ、顔見た?」
店「見ちゃいましたあ!!(泣)」
私「ケバかった?」
店「はい!はいっ!!(大泣)」
私「私とどっちがケバかった?」
店「あああ・・あ・・・・あ(汗)」
サイドミラーに映っていた、
あの女に間違いないと確信した。
もう二度とあの道は通らないとは思うが、
なぜに三度も襲われたのか謎である。
ざっと調べてみたが、
あの付近で死亡事故やら殺人事件やら、
幽霊の発生源になるような件は
見当たらなかった。
人知れず、あのケバイ女はあの山付近に
埋められているのだろうか。
ケバイ繋がりだけで、
私に憑いて来てしまったのだろうか。
そしてあいつは、
投げ飛ばされたコンビニの駐車場に
今もいるのだろうか。
あのコンビニにも、
二度と行かないつもりではある。
(終)