もし、あの声に応じて鍵を開けていたら
私は高校1年生で、小学6年生の弟がいます。
家は2階建ての一軒家。
今、訳あって1階の和室で母と弟と3人で寝ています。
その晩、母と弟は既に寝ていて、私も寝ようと一旦布団に入りました。
ですが、寝る前に何か本を読もうかと、2階の自分の部屋へ取りに行ったのです。
本を持って階段を降りようとした時、急に尿意を催して2階のトイレに入りました。
そして水を流そうとした時、ドアの向こうから声が聞こえました。
もし、鍵を開けていたら・・・
「お姉ちゃん、おしっこ漏れそう。早く代わって!」
弟の声でした。
そして、「ドン!ドン!」とドアを叩く音。
鍵を掛けていたので開けようとしましたが、ふと妙に思いました。
1階にもトイレはあるのに、どうしてわざわざ2階のトイレに?
「●●●?(弟の名前)」
名前を呼んでみましたが、うんともすんとも言わない。
そして、もう一つ妙な事に気が付きました。
私の家の階段は、歩くと必ず音が出ます。
建て付けが悪いのか、どれだけこっそり歩いても「ギシギシ・・・」と。
なのに、その音が全く聞こえませんでした。
開けようとした鍵に手を掛けたまま、私は固まりました。
何かがいる気配はするのです。
でも、弟ではない気がして・・・。
声も出せませんでした。
それに、本当に漏れそうなら再度叫ぶはずです。
黙って待っているような子ではありません。
私は鍵を開けるのが怖くて、そのままトイレの中でじっとしていました。
15分くらい経った頃、気配がふっと消えました。
トイレで一晩過ごすのも嫌だったので、ドアをそっと開けました。
誰も居ない。
階段を降りる音はしなかったので、もし弟が私を驚かせようと2階に隠れているのなら、殴ってやろうと思いながら階段までたどり着きました。
弟には会いませんでした。
どこかの部屋に隠れているのなら別ですが、2階にいるのが怖かったので、私は探そうとはせずに階段を降りました。
深夜なので寝ている家族にも気を遣って、なるべく音を立てないように歩きましたが、やっぱりギシギシ・・・と鳴っていました。
和室に入ると、私が部屋を出た時と同じように母と弟が寝ていました。
弟は寝たフリなのかと思い、つねったりくすぐったりしましたが爆睡していました。
もし、あの声に応じて鍵を開けていたら・・・
そう考えると怖くてあまり眠れませんでした。
(終)