開かずのトイレから聞こえる足音

これは学校にまつわるっていうか、

俺の体験談なんだけど。

 

うちの学校は

半寮制の学校で、

 

学校から遠い人は

学校の近くの寮に入る、

 

っていうシステムだった。

 

ちなみに中高一貫教育で、

 

大体、中1~中2、中3~高1、

高2~高3で別の寮っていう感じに、

 

3つの寮があった。

 

俺が高1の時、

 

つまり、2番目の寮に移った時の

話なんだけど。

 

その寮は、地下1階と

地上3階の造りで、

 

(正確に言うと、

 

傾斜地に立てられているので

見方によっては4階建て)

 

各階がL字型をしていた。

 

問題の話は、

 

3階の部屋に部屋替えで移って来た

時に起こった事なんだ。

 

ちなみに、各階にトイレは

2ヶ所づつあるんだけど、

 

なぜか3階のトイレだけは

1ヶ所にしかなかった。

 

他の階のトイレがある位置は、

なぜか『開かずの間』になっていた。

 

俺は、その『開かずのトイレ』の

隣の部屋に移ってきたんだ。

 

学校は2学期を迎える

くらいの時だったから、

 

9月の上旬くらい。

 

まだ夏の蒸し蒸しした感じが

強い頃だった。

 

俺が移ってきたその部屋は、

入った時から嫌な感じがしていたが、

 

その寮自体が

老朽化していた事もあり、

 

ボロいからこそ

嫌な感じがするんだろうなあ、

 

くらいにしか感じてなかった。

 

ちなみに、部屋の構成は

2段ベッドが2つ。

 

高1が二人で中3が二人

といった感じで、

 

俺は2段ベッドの

上の方にいた。

 

大体、高1がベッドの

優先所有権を持っていて、

 

ほとんどの奴は

下を選択していたが、

 

その寮は極めてボロく、

 

部屋の中にムカデやゴキブリが

たくさん出るような状況だったから、

 

その手のモノが大嫌いな俺は、

迷わず上のベッドを選択していた。

 

そんなある日の夜、

 

俺はなかなか寝付けずに、

寝苦しい夜を過ごしていた。

 

周りからは他三人の

寝息くらいしか聞こえない。

 

なんか嫌だな~といった

漠然とした不安があった為、

 

どうにかして寝ようと、

悪戦苦闘していた。

 

そんな時、

 

不意に俺の身体が

動けなくなった。

 

いわゆる、

金縛りの状態だ。

 

よく、金縛りに遭う状況の時は

ラップ音を聞くとか言うが、

 

その時はそんなものは聞こえず、

いきなり固まった。

 

しばらくその状態で

もがいていると、

 

隣の『開かずのトイレ』が

開く音がした。

 

『ギイィィィィ・・・』

 

「うわっ、やばいっ!」

 

俺は必死で目を閉じた。

 

(金縛りだったが、どうにか

目を閉じる事は出来た)

 

すると、『開かずのトイレ』からは、

 

ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ・・・

 

と何者かが出てくる気配がする。

 

そして、『開かずのトイレ』の

前の部屋で止まる。

 

(この時、そのモノがどこにいるのか、

何故か明確に把握出来ていた)

 

「俺の所に来るなー!」

 

そう念じてみるものの、

 

そのモノは俺達の部屋の前まで、

移動を開始した。

 

ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ・・・

 

「うわぁぁー!」

 

心の中では、

まさに半狂乱。

 

しかしそのモノは、

俺の心が通じたのかどうか、

 

また移動を開始した。

 

ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ・・・

 

ホッとはしたものの、

まだ金縛りは解けない。

 

でも、自分の部屋を

通り過ぎた安堵感で、

 

正直、嬉し泣きしそうだった。

 

そのモノは、

各部屋の前で一旦停止し、

 

また動くという事を繰り返し、

 

結果として、

3階全部の部屋を回った。

 

(見てないので、・・・はずだ)

 

L字の先のところまで

辿り着いたはずだ。

 

相変わらず、

俺の金縛りは解けない。

 

そしてそのモノは、

 

またこちらの方に向かって

歩き出した。

 

ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ、

ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ、

ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ、

 

今度は各部屋の前で止まらず、

 

真っ直ぐ『開かずのトイレ』に

向かっている様子だ。

 

「早く自分の居場所に戻ってくれー」

 

俺は、ずっと、

そう念じていた。

 

ところがそのモノは、

俺の部屋の前で止まった。

 

さらに、

俺の部屋に入って来た。

 

ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ。

 

「うわぁぁぁぁ!」(号泣)

 

もう半狂乱どころの騒ぎではない。

大泣きである。

 

不思議と涙は出なかったが。

 

そして、俺のベッドの前に

来てしまった・・・。

 

もう、そいつが人間のような

ものであるという事が、

 

鋭敏に伝わってきていた。

 

なにしろ、前述の通り、

俺は2段ベッドの上の方。

 

そいつの顔が俺の真横に

あるのを感じるのだから・・・。

 

そいつの鼻息のようなものまで、

リアルに感じる。

 

その時、

 

そいつはこう言った。

 

「オレノベッド・・・」

 

俺はその言葉を聞いた瞬間、

遠のく意識を感じた。

 

要するに、

気絶してしまったのだ。

 

気絶したのは後にも先にも、

これが初めて。

 

二度としたくない。

 

(終)

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