聞き覚えのない男の笑い声
子供の頃に住んでいた平屋での話。
一人で家に居た時、3つあるうちの真ん中の部屋で本を読んでいたら誰かが帰って来た。
うちは鍵は開けっ放しの家。
田舎だし、これでも全然大丈夫なんだ。
近所の人が来た時は、入口で「お~い、居るか~?」と叫ぶから、黙って家に入って来るのは家族しかいない。
この時も誰かが黙って入って来たのだが、足音は男の足音だった。
うちの家族では、俺以外に男は兄か親父の二人なのだが、どちらでもない感じ。
それでも、まぁどちらかなんだろうと無視していた。
その入って来た男は、台所へ行って冷蔵庫を開けたり、お茶碗にご飯をよそったりして、それを持ってコタツのある部屋・・・つまりは俺が居る隣の部屋に行って、テレビをつけてご飯を食べ始めた。
お茶碗を置いたりする音や、箸の音も聞こえる。
しばらく経った頃、テレビを観ながらご飯を食べていた男は、テレビが面白かったのか大笑いした。
「アハハハハハハハハハハ」
・・・・・・聞き覚えのない笑い声。
兄でも親父でもない男の笑い声だった。
えっ?!と思い、俺は反射的に襖を開けた。
するとそこには誰も居なくて、お茶碗も無いしテレビもついていない。
そもそも、人の気配すら全く無かった。
ちょっと前でも人が居たなら何かしら分かるものだが、人の居た気配が無いどころか、妙に嫌な感じがした。
そのあまりにも“無”な感じがめちゃくちゃ怖くて、大急ぎで家を出て、家族が帰って来るまで暗くなってもずっと家の前で待っていたことがあった。
(終)