ホンマモンの幽霊に遭遇したんは初めてや

白鬚神社

 

これは、2年前に琵琶湖へ行った時の話。

 

その日、インフレータブルボート(ゴムボート)を二人乗りで回遊していた。

 

そして夕暮れ時、天候が怪しくなってきた。

 

夕立が来そうな気配。

 

そう思っていた矢先、雷が鳴り出す。

 

「やっべぇなぁ」と思った次の瞬間、わりと近くに雷が落ちた。

 

その直後、蜘蛛の子を散らしたように、湖面のボートが一斉に引き上げていく。

 

俺たちも引き上げようと思ったが、近くでウェーダー(腰や胸まである長靴)を着た男が立ち往生しているのが見えた。

 

太ももの上まで浸かっていて、全く身動き出来ないように見えた。

 

そこで俺たちは、エレキ(エレキモーター)を回して救出に向かうことに。

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あれはヤバイもの

「おーい、どーしたー。動けないのかー?」

 

しかし、男は無言だ。

 

すると突然、エレキが止まった。

 

「おい、どないしてん?」

 

「いや、なんか変だ。魚探の数値見てみろよ」

 

「!?」

 

水深3.6メートル・・・。

 

「おい、いつでも逃げれるよう船外機を回しとけ」

 

「お、おう・・・」

 

再びゆっくりとエレキを回して男に接近する。

 

よく見れば、男が着ているのはウェーダーではなかった。

 

作業服のような服に、作業帽を被っている。

 

分厚い黒縁の眼鏡かけ、おかしな顔色。

 

もしや落雷の衝撃か何かで死体でも浮き上がってきたのか?と思ったが、そうではなかった。

 

なぜなら、その男が身動き一つしていないのに、こちらに吸い寄せられるように接近してきたからだ。

 

「逃げるぞ!!」

 

「おう!!」

 

しかし、今までアイドリングしていた船外機は突然停止した。

 

スターターを引いても全くかからない。

 

「ダメだ!エレキ、エレキで行ってくれ!」

 

「な、なんだこりゃ・・・」

 

その時、エレキのフット部(フットコントロール式の足で操作する部分)から煙が。

 

「ダメだ!オール、オールだ!」

 

慌ててオールで漕いで離脱する。

 

その間、ブーンと妙に電気的な音がしていた。

 

ある程度進んだところで、船外機のスターターを引いた。

 

今度はすぐにかかった。

 

全力で離脱を決め、そのまま出発地点へ。

 

「なあ、さっきのってヤバイやつやんなぁ?」

 

「おお、マジヤバイわ。ホンマモンに遭遇したんは初めてやで」

 

そして出発地点付近まで来た時、豪雨が降ってきた。

 

「うわ、これスゴイな!」

 

「まあ、腹くくって上陸・・・お、おい、あれ!」

 

なんと、さっきの作業服の男がボートを出したところにいるのだ。

 

「なんか水際であぐらをかいてこっちを・・・。いや、違う。水の上に座ってる!?」

 

「ダメだ!ここもダメだー!」

 

また反転し、離脱する。

 

しかしこの豪雨、避難する場所はもう橋の下しかない。

 

全力で橋に向かって移動する。

 

そこには雨と雷から逃れるために数隻のボートが集まっていた。

 

やれやれ、と腰が抜ける。

 

「おい、あんたら・・・」

 

他のボートの人が話しかける。

 

「はい?」

 

「あれはあんたらのツレか?」

 

指先の方向を見ると、豪雨の中、水の上にあの男が。

 

下半身から下が水の中のようにも見えるが、この辺りは水深1.5メートル以上はある。

 

「いや違う。ツレなんかじゃない!ていうか、あんたにも見えるのか!?」

 

俺たちの狼狽ぶりを見て、それがヤバイものだと分かったらしい。

 

何事かと他のボートも寄ってきた。

 

デジカメや携帯で写真を撮る者もいた。

 

俺たちはビデオカメラを回した。

 

夕立はすぐ止み、それと同時に男も煙のようにスーっと消えていった。

 

集まっていたボートも散っていった。

 

出発地点付近にも人が行き交うのを見て、俺たちは撤収することにした。

 

以来、作業服の男とは遭遇したことはないが、あれは一体何だったのだろうか。

 

ビデオカメラには、なぜか黒っぽい霧のような影のようなものしか映っていなかった。

 

(終)

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